失敗作なら
(…マザー・イライザの最高傑作…)
地球のためだけに作られた者か、とキースが浮かべた自嘲の笑み。
国家騎士団総司令を務めて来たけれど、もうすぐパルテノン入りすることになる。
初の軍人出身の元老として、SD体制を、地球を導く者の一人に選び出されて。
(目障りだから、と暗殺しようとする者たちもまた、多いのだがな…)
生憎と、まだ私は死ねん、と夜の自室でコーヒーのカップを傾ける。
このコーヒーを淹れた「マツカ」が側にいる限り、誰も「キース・アニアン」を殺せはしない。
挑むだけ無駄で、挑戦者の命が逆に奪われて終わるというだけ。
(…しかし、グランド・マザーでさえも…)
マツカの正体を知りはしないし、「キース」の能力の一つだと思っていることだろう。
数多の暗殺計画を退け、無事に生き延びている「強運」でさえも。
(なんと言っても、最高傑作なのだからな)
全くの無から作った命だ、と自分自身でも笑うことしか出来ない。
「地球を導く」目的のために作られたのなら、優秀であって当然だろう。
数々の失敗作を作り続けて、ようやく生まれた「機械の申し子」。
シロエに言わせれば「機械に作られた人形」、そのくせに、やたら傲慢な「キース」。
性格が傲慢、というわけではない。
「キース」を立派に育て上げるために、幾つもの命が弄ばれた。
人形なのだ、と正体を暴いた「シロエ」もそうだし、サムも、スウェナもそうだった。
幸い、スウェナは今でも何事もなく生きている。
けれども、サムは狂ってしまった。
サムが「狂った」事件の裏には、人類の宿敵、「ミュウ」が潜んでいたのだけれど…。
(…ミュウがいるのも、ジョミー・マーキス・シンとサムとの関係も…)
全て承知で、サムを現場へ向かわせたのは、恐らく機械の陰謀だろう。
偶然ということになってはいても、グランド・マザーには容易い小細工なのだから。
(そんな具合に、ヒトの命や人生を土足で踏みにじりながら…)
「キース・アニアン」は育ち続けて、今は此処まで昇って来た。
なんと傲慢な命だろうか、と唇を歪めて、ふと思ったこと。
「最高傑作だと、いつ決まったのだ?」と心に浮かんで来た疑問。
マザー・イライザは、何処で判断したのだろうか、と。
かつてシロエが命懸けで調べた、「キース・アニアン」の生まれと「ゆりかご」。
Eー1077の立ち入り禁止区画に在った、フロア001という名の実験室。
(…私が其処まで辿り着いたのは、かなり後のことで…)
その時には、もうEー1077は、とうに廃校になっていた。
(シロエがMのキャリアだったからだ、と言われてはいるが…)
人がいなくなって長い年月を経ていた其処には、サンプルしか残っていなかった。
「キース・アニアン」と同じ顔立ちの、様々な年齢の「標本」たち。
それと、モビー・ディックの中で出会った、ミュウの女に瓜二つな者たちのサンプル。
どちらの「実験」も、廃棄されて久しいと一目で分かる状態だった。
「キース」が作り出された後には、実験室は閉鎖になっていたのだろう。
最高傑作が出来たからには、実験を続ける必要は無い。
速やかに閉鎖し、研究者たちも全て処分か、記憶処理をして他所へ行かせたか。
(…恐らく、そんなところだろうが…)
では、実験は、「いつ」終わったのか。
どの段階で「今、此処にいる」、「キース」が「最高」だという判断が下されたのか。
(…水槽から出した時なのか?)
一介の候補生として、他の生徒たちの間に送り込んだ時か、と考えるのが妥当だけども…。
(そうだったならば、シロエやサムは…)
それにスウェナは、何のために選び出されて「キース」の前に現れたのか。
「最高傑作」を更に素晴らしいものにするためか、あるいは、結果を確かめるためか。
彼らと「キース」が接触した時、「キース」が理想的な行動を取るかどうかを…。
(…確認するためでもあったのか?)
シロエはともかく、サムとスウェナには、その可能性がある、と気が付いた。
すっかり忘れていたのだけれども、スウェナがEー1077に来た時に起こった事件。
(…スウェナたちを乗せて来た宇宙船が…)
軍の船との接触事故を起こして、危うく宇宙の藻屑になりかねなかった、あの時のこと。
先輩だったグレイブたちは、事故処理をマザー・イライザに任せて、退避を決めた。
「諸君も、私たちについて来るのが賢明だぞ」と、後輩たちに助言をして。
(あの時、それに従っていたら…)
スウェナを乗せた船は、どうなっていたか。
もしも「キース」が、違う判断をしていたならば。
事故が起きた時、「キース」も、グレイブも、同じ情報を「同時に」得た。
隣同士で端末を操作し、何が起きたか把握したのも、全く同時。
グレイブは「退避」を決めたけれども、「キース」は違う決断をした。
マザー・イライザが「対応出来なかった場合」を考慮した上で、「救助に向かおう」と。
そのためのルートを確認してから出ようとした時、サムが一緒について来た。
お蔭で、救助活動の終盤、「キース」の命綱が切れてしまった時に…。
(サムが助けに来てくれて…)
命を拾って、Eー1077に生きて戻って来ることが出来た。
もしかしたら、サムは「そのために」選ばれた者だったろうか。
「キース」が救出に向かった先で、何かあった時に「助ける」ための救助要員。
(…充分、有り得る話だな…)
宇宙船の事故が「キースのために」仕組まれたものなら、救助要員も選んでおくだろう。
せっかくテストに合格したのに、不慮の事故で死んで貰っては困る。
そう、あの事故は「テスト」の一つ。
「キース」が完成体かどうかを、「マザー・イライザ」が調べるためにやった「実験」。
あそこで「キース」が救助に向かわず、グレイブたちと一緒に退避していたら…。
(…失敗作だと判断されたか、軌道修正を試みたのか…)
どちらだろうな、と顎に手を当て、「イライザなら…」と思考してみて背筋が冷えた。
マザー・イライザは、所詮は巨大コンピューター。
機械にとっては、どんな事象も「0」か「1」でしかないだろう。
多少は幅があったとしたって、結果が全て。
「キース」が「取るべき行動」を取らず、「違う行動」をしたのなら…。
(…失敗作というヤツだ…)
軌道修正などは「するだけ無駄」で、次の「キース」を作り出そうとしたのだと思う。
先の「キース」の失敗を踏まえて、次は失敗しないようにと、検討を重ねて、取りかかって。
新たにDNAを紡いで、先の「キース」と同じ顔に育つ「次の人形」を作り始めただろう。
それが育って「水槽から出せる」年になるまで、十五年以上もかかったとしても構わない。
理想的な指導者を作るためなら、機械は手間を惜しみはしない。
「失敗作」などにかまけているより、「次」にかかった方がいい。
より良い者を作った方が、遥かに建設的なのだから。
そうなっていたら、「キース」は「今、此処に」生きてはいない。
どんな形で処分されたか、その方法は分からないけれど…。
(…失敗作だと決まった時点で、マザー・イライザに殺されて…)
フロア001に並ぶ「サンプルたち」の列に加わり、虚ろな目をしていたことだろう。
その目には、もう何も映すことなく、この「魂」も何処かへ飛び去った後で。
(……あの事故が起きた時点では……)
グランド・マザーは、まだミュウを「脅威」とは認識していなかった。
アルテメシアで「ジョミー・マーキス・シン」を取り逃がした件は、些細なこと。
ミュウたちが「モビー・ディック」という巨大な母船を持っていようと、それだけのこと。
「異分子どもが、勝手に何かしている」けれども、SD体制は、そう簡単に揺るぎはしない。
何かするようなら、いつでも殲滅出来る程度の、宇宙海賊と変わらない存在がミュウ。
(…そう考えていたのだろうな)
でなければメギドを持ち出している、と考えるまでもなく答えを出せる。
「モビー・ディック」を持つミュウが「脅威」なら、あそこで星ごと消していたろう。
アルテメシアの住民たちまで巻き添えにしても、それだけの価値はあるのだから。
ミュウどもを全て滅ぼせるのなら、一般市民など、どうでもいい。
(…メギドを使ったことさえも伏せて、何か事故でもあったことにして…)
機械は全ての帳尻を合わせ、ミュウの存在を「無かったこと」にしていたと思う。
モビー・ディックが消えてしまえば、脅威は無くなり、平和な世界が戻って来た筈。
その選択をしなかった以上、あの時点では、機械が考える「世界」は平穏そのもので…。
(…何の脅威も無いのだったら、次のキースを作り出すのに長い時間がかかっても…)
グランド・マザーは、ゆったり構えて、「完成」を待っていたことだろう。
「彼女」が欲する「理想の指導者」、それが生まれて来る時まで。
フロア001で実験を続け、マザー・イライザから「成功」の報が届くまで。
(…私を処分し、次のキースを作る間に…)
ミュウどもが侵攻して来たとしても、機械は手札を持ってはいない。
失敗作だった「キース」は処分した後で、次の「キース」は出来ていないか、若年すぎるか。
それでは勝負になりはしなくて、人類は早々に負けていたろう。
なにしろ「キース」がいないのだから、ジルベスター・セブンを調査しようにも…。
(適切な者が一人もいなくて…)
そこで敗北が決定だぞ、と思ったけれども、一人いたことを思い出した。
失敗作に終わった「キース」が処分されたのなら、優秀な人材がいたのだ、と。
(…セキ・レイ・シロエ…)
あいつなら、上手くやっただろうさ、と可笑しくなる。
「キース」が失敗作で終わって、宇宙船の事故の時点で処分されたら、シロエは「自由」。
選び出されて連れて来られることなどは無くて、「実力で」Eー1077に入っただろう。
ミュウの因子を持っていたって、それを巧みに隠し続けて。
システムに反抗的な面はあっても、他の点では「抜きん出ている」実力者。
(…「キース」のために選ばれなければ、シロエは自由で、めきめきと頭角を現して…)
ジルベスター・セブンに調査に向かって、その先で、何を得て来たろうか。
その前に出会う「マツカ」との縁も、「キースの場合」とは違った筈。
人類とミュウは手を取り合っていたかもしれない。
シロエが調査に向かっていたなら、「キース」のようにメギドを選びはしないから。
「キース」に劣らず優秀な頭脳、それで考え、別の選択肢を導き出して。
(……もしかしたら、私は失敗作で終わっていた方が……)
良かったのかもしれないな、と思いはしても、もう遅すぎる。
「キース」は「テスト」に見事に合格、その後も順調だったから。
失敗作だと判断されずに生き延びた挙句、とうとう此処まで来てしまったから…。
失敗作なら・了
※キースはマザー・イライザの最高傑作ということですけど、そう決まったのはいつなのか。
水槽から出す前に決定していたら、宇宙船の事故は必要無いのでは、と思ったわけで…。
地球のためだけに作られた者か、とキースが浮かべた自嘲の笑み。
国家騎士団総司令を務めて来たけれど、もうすぐパルテノン入りすることになる。
初の軍人出身の元老として、SD体制を、地球を導く者の一人に選び出されて。
(目障りだから、と暗殺しようとする者たちもまた、多いのだがな…)
生憎と、まだ私は死ねん、と夜の自室でコーヒーのカップを傾ける。
このコーヒーを淹れた「マツカ」が側にいる限り、誰も「キース・アニアン」を殺せはしない。
挑むだけ無駄で、挑戦者の命が逆に奪われて終わるというだけ。
(…しかし、グランド・マザーでさえも…)
マツカの正体を知りはしないし、「キース」の能力の一つだと思っていることだろう。
数多の暗殺計画を退け、無事に生き延びている「強運」でさえも。
(なんと言っても、最高傑作なのだからな)
全くの無から作った命だ、と自分自身でも笑うことしか出来ない。
「地球を導く」目的のために作られたのなら、優秀であって当然だろう。
数々の失敗作を作り続けて、ようやく生まれた「機械の申し子」。
シロエに言わせれば「機械に作られた人形」、そのくせに、やたら傲慢な「キース」。
性格が傲慢、というわけではない。
「キース」を立派に育て上げるために、幾つもの命が弄ばれた。
人形なのだ、と正体を暴いた「シロエ」もそうだし、サムも、スウェナもそうだった。
幸い、スウェナは今でも何事もなく生きている。
けれども、サムは狂ってしまった。
サムが「狂った」事件の裏には、人類の宿敵、「ミュウ」が潜んでいたのだけれど…。
(…ミュウがいるのも、ジョミー・マーキス・シンとサムとの関係も…)
全て承知で、サムを現場へ向かわせたのは、恐らく機械の陰謀だろう。
偶然ということになってはいても、グランド・マザーには容易い小細工なのだから。
(そんな具合に、ヒトの命や人生を土足で踏みにじりながら…)
「キース・アニアン」は育ち続けて、今は此処まで昇って来た。
なんと傲慢な命だろうか、と唇を歪めて、ふと思ったこと。
「最高傑作だと、いつ決まったのだ?」と心に浮かんで来た疑問。
マザー・イライザは、何処で判断したのだろうか、と。
かつてシロエが命懸けで調べた、「キース・アニアン」の生まれと「ゆりかご」。
Eー1077の立ち入り禁止区画に在った、フロア001という名の実験室。
(…私が其処まで辿り着いたのは、かなり後のことで…)
その時には、もうEー1077は、とうに廃校になっていた。
(シロエがMのキャリアだったからだ、と言われてはいるが…)
人がいなくなって長い年月を経ていた其処には、サンプルしか残っていなかった。
「キース・アニアン」と同じ顔立ちの、様々な年齢の「標本」たち。
それと、モビー・ディックの中で出会った、ミュウの女に瓜二つな者たちのサンプル。
どちらの「実験」も、廃棄されて久しいと一目で分かる状態だった。
「キース」が作り出された後には、実験室は閉鎖になっていたのだろう。
最高傑作が出来たからには、実験を続ける必要は無い。
速やかに閉鎖し、研究者たちも全て処分か、記憶処理をして他所へ行かせたか。
(…恐らく、そんなところだろうが…)
では、実験は、「いつ」終わったのか。
どの段階で「今、此処にいる」、「キース」が「最高」だという判断が下されたのか。
(…水槽から出した時なのか?)
一介の候補生として、他の生徒たちの間に送り込んだ時か、と考えるのが妥当だけども…。
(そうだったならば、シロエやサムは…)
それにスウェナは、何のために選び出されて「キース」の前に現れたのか。
「最高傑作」を更に素晴らしいものにするためか、あるいは、結果を確かめるためか。
彼らと「キース」が接触した時、「キース」が理想的な行動を取るかどうかを…。
(…確認するためでもあったのか?)
シロエはともかく、サムとスウェナには、その可能性がある、と気が付いた。
すっかり忘れていたのだけれども、スウェナがEー1077に来た時に起こった事件。
(…スウェナたちを乗せて来た宇宙船が…)
軍の船との接触事故を起こして、危うく宇宙の藻屑になりかねなかった、あの時のこと。
先輩だったグレイブたちは、事故処理をマザー・イライザに任せて、退避を決めた。
「諸君も、私たちについて来るのが賢明だぞ」と、後輩たちに助言をして。
(あの時、それに従っていたら…)
スウェナを乗せた船は、どうなっていたか。
もしも「キース」が、違う判断をしていたならば。
事故が起きた時、「キース」も、グレイブも、同じ情報を「同時に」得た。
隣同士で端末を操作し、何が起きたか把握したのも、全く同時。
グレイブは「退避」を決めたけれども、「キース」は違う決断をした。
マザー・イライザが「対応出来なかった場合」を考慮した上で、「救助に向かおう」と。
そのためのルートを確認してから出ようとした時、サムが一緒について来た。
お蔭で、救助活動の終盤、「キース」の命綱が切れてしまった時に…。
(サムが助けに来てくれて…)
命を拾って、Eー1077に生きて戻って来ることが出来た。
もしかしたら、サムは「そのために」選ばれた者だったろうか。
「キース」が救出に向かった先で、何かあった時に「助ける」ための救助要員。
(…充分、有り得る話だな…)
宇宙船の事故が「キースのために」仕組まれたものなら、救助要員も選んでおくだろう。
せっかくテストに合格したのに、不慮の事故で死んで貰っては困る。
そう、あの事故は「テスト」の一つ。
「キース」が完成体かどうかを、「マザー・イライザ」が調べるためにやった「実験」。
あそこで「キース」が救助に向かわず、グレイブたちと一緒に退避していたら…。
(…失敗作だと判断されたか、軌道修正を試みたのか…)
どちらだろうな、と顎に手を当て、「イライザなら…」と思考してみて背筋が冷えた。
マザー・イライザは、所詮は巨大コンピューター。
機械にとっては、どんな事象も「0」か「1」でしかないだろう。
多少は幅があったとしたって、結果が全て。
「キース」が「取るべき行動」を取らず、「違う行動」をしたのなら…。
(…失敗作というヤツだ…)
軌道修正などは「するだけ無駄」で、次の「キース」を作り出そうとしたのだと思う。
先の「キース」の失敗を踏まえて、次は失敗しないようにと、検討を重ねて、取りかかって。
新たにDNAを紡いで、先の「キース」と同じ顔に育つ「次の人形」を作り始めただろう。
それが育って「水槽から出せる」年になるまで、十五年以上もかかったとしても構わない。
理想的な指導者を作るためなら、機械は手間を惜しみはしない。
「失敗作」などにかまけているより、「次」にかかった方がいい。
より良い者を作った方が、遥かに建設的なのだから。
そうなっていたら、「キース」は「今、此処に」生きてはいない。
どんな形で処分されたか、その方法は分からないけれど…。
(…失敗作だと決まった時点で、マザー・イライザに殺されて…)
フロア001に並ぶ「サンプルたち」の列に加わり、虚ろな目をしていたことだろう。
その目には、もう何も映すことなく、この「魂」も何処かへ飛び去った後で。
(……あの事故が起きた時点では……)
グランド・マザーは、まだミュウを「脅威」とは認識していなかった。
アルテメシアで「ジョミー・マーキス・シン」を取り逃がした件は、些細なこと。
ミュウたちが「モビー・ディック」という巨大な母船を持っていようと、それだけのこと。
「異分子どもが、勝手に何かしている」けれども、SD体制は、そう簡単に揺るぎはしない。
何かするようなら、いつでも殲滅出来る程度の、宇宙海賊と変わらない存在がミュウ。
(…そう考えていたのだろうな)
でなければメギドを持ち出している、と考えるまでもなく答えを出せる。
「モビー・ディック」を持つミュウが「脅威」なら、あそこで星ごと消していたろう。
アルテメシアの住民たちまで巻き添えにしても、それだけの価値はあるのだから。
ミュウどもを全て滅ぼせるのなら、一般市民など、どうでもいい。
(…メギドを使ったことさえも伏せて、何か事故でもあったことにして…)
機械は全ての帳尻を合わせ、ミュウの存在を「無かったこと」にしていたと思う。
モビー・ディックが消えてしまえば、脅威は無くなり、平和な世界が戻って来た筈。
その選択をしなかった以上、あの時点では、機械が考える「世界」は平穏そのもので…。
(…何の脅威も無いのだったら、次のキースを作り出すのに長い時間がかかっても…)
グランド・マザーは、ゆったり構えて、「完成」を待っていたことだろう。
「彼女」が欲する「理想の指導者」、それが生まれて来る時まで。
フロア001で実験を続け、マザー・イライザから「成功」の報が届くまで。
(…私を処分し、次のキースを作る間に…)
ミュウどもが侵攻して来たとしても、機械は手札を持ってはいない。
失敗作だった「キース」は処分した後で、次の「キース」は出来ていないか、若年すぎるか。
それでは勝負になりはしなくて、人類は早々に負けていたろう。
なにしろ「キース」がいないのだから、ジルベスター・セブンを調査しようにも…。
(適切な者が一人もいなくて…)
そこで敗北が決定だぞ、と思ったけれども、一人いたことを思い出した。
失敗作に終わった「キース」が処分されたのなら、優秀な人材がいたのだ、と。
(…セキ・レイ・シロエ…)
あいつなら、上手くやっただろうさ、と可笑しくなる。
「キース」が失敗作で終わって、宇宙船の事故の時点で処分されたら、シロエは「自由」。
選び出されて連れて来られることなどは無くて、「実力で」Eー1077に入っただろう。
ミュウの因子を持っていたって、それを巧みに隠し続けて。
システムに反抗的な面はあっても、他の点では「抜きん出ている」実力者。
(…「キース」のために選ばれなければ、シロエは自由で、めきめきと頭角を現して…)
ジルベスター・セブンに調査に向かって、その先で、何を得て来たろうか。
その前に出会う「マツカ」との縁も、「キースの場合」とは違った筈。
人類とミュウは手を取り合っていたかもしれない。
シロエが調査に向かっていたなら、「キース」のようにメギドを選びはしないから。
「キース」に劣らず優秀な頭脳、それで考え、別の選択肢を導き出して。
(……もしかしたら、私は失敗作で終わっていた方が……)
良かったのかもしれないな、と思いはしても、もう遅すぎる。
「キース」は「テスト」に見事に合格、その後も順調だったから。
失敗作だと判断されずに生き延びた挙句、とうとう此処まで来てしまったから…。
失敗作なら・了
※キースはマザー・イライザの最高傑作ということですけど、そう決まったのはいつなのか。
水槽から出す前に決定していたら、宇宙船の事故は必要無いのでは、と思ったわけで…。
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