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風と木の騎士団

(マザー直々の選抜だというのは分かるが…)
 見た顔が多いのも仕方ないが、と首を捻ったキース。自分の部屋で。
 ジルベスター星系からノアに戻った後、直属の部下たちを思い浮かべて。
 自ら側近に起用したマツカ、彼については問題ない。ミュウの能力を高く買った上で、マザーを誤魔化して側近に据えた。きっと役立つだろうから。
 マツカは元々、人類統合軍の人間。それでは自分の部下に出来ないから、国家騎士団の方に転属させた。有能で忠実な側近になるのは間違いないし、「これは使える」と。
 それとは別に、グランド・マザーに依頼した部下。「ミュウの掃討に役立つ者を」と、実戦経験豊富な者たちの配属を。
(…それで来たのが、スタージョン中尉たちなのだがな…)
 あの面子はアクが強すぎないか、と気になって仕方ない自分の部下たち。
 まずはスタージョン中尉が問題、軍の上層部になればなるほど、いないのが濃い肌の色を持った人材。黄色だろうが、褐色だろうが。
(SD体制の時代になっても、妙なこだわりというヤツで…)
 出世するには、「肌の色は白い方がいい」とされていた。時代錯誤も甚だしい話。
 SD体制が始まるよりも、ずっと昔に消えてしまった「肌の色での区別」や差別。科学的根拠はナッシングだから、そんな説など時代遅れだ、と。
(しかし、そいつがまかり通るのが…)
 今の時代で、旗振り役はグランド・マザーだと囁かれている。
 ミュウを「異分子」と決め付けるように、肌の色も「白いほどいい」と考えている機械。実際、それを裏付けるように、国家騎士団には肌の色が白い者ばかりで…。
(たまに肌の色が濃いのがいたなら、辺境星域が配属先で…)
 どう間違っても、ノアに配属されては来ない。相当な功績があるならともかく、まだ駆け出しの中尉程度の階級では。
 それが世間の常識で認識、なのに来たのが褐色の肌を持つスタージョン中尉。
(あまつさえ、パスカルたちもいるのに…)
 肌が白い彼らを軽く押しのけ、補佐官の地位まで拝命している。マザー直々の選抜で。
 グランド・マザーは、「肌が白くない」士官は嫌いな筈なのに。


 なんとも妙だ、と解せない部下。その筆頭がスタージョン中尉で、パスカルだって…。
(…あの無精髭を生やしたままでは…)
 将来、出世に支障が出るぞ、と教官時代に何度も叱った。「出世したいなら、髭を剃れ」と。
 けれども聞かなかったパスカル。「出世に興味はありませんから」と鼻で笑って。出世よりかは個性が大事で、「これが私のスタイルなので」と貫いた髭。
(とっくに何処かでドロップアウトで…)
 二度と目にすることもあるまい、と思っていたのに、グランド・マザーに選ばれたパスカル。
 あまつさえ、スタージョン中尉に次ぐ二番手な立ち位置で。
(グランド・マザーは、無精髭も好みではない筈なのだが…)
 髭を生やすなら、もっとジェントルマンな髭。遠い昔の紳士や軍人、彼らの髭に倣ったもの。
 そういう髭なら「まあ、いいだろう」と、許すと噂のグランド・マザー。
 肌の色で差別をかます件といい、何処までも時代錯誤な機械で、さながら女帝気取りとも言う。
(人種差別は当たり前のことで、髭も立派な髭でない限りは認めない女帝…)
 それがグランド・マザーの本性、髭はともかく、肌の色で泣きを見た者も多い。
 ところが今度の人事ときたら、ミュウ殲滅のための作戦だったのに…。
(セルジュを寄越して、補佐にパスカル…)
 この二人だけでも「強すぎる」アク。
 グランド・マザーの趣味とも思えぬ、斜め上をいく大抜擢。
(彼らのデータを調べてみたが…)
 輝かしい功績を上げてはいないし、何故こうなったか分からない。選ばれた理由がサッパリ謎。これが人間によるものだったら、「袖の下」などもアリだけれども…。
(グランド・マザーに賄賂を贈ったところで…)
 何の効果もありはしなくて、下手をしたなら食らうのが左遷。それこそ辺境星域へと。
 ましてやグランド・マザーが嫌いな、「褐色の肌」や「無精髭」の輩が賄賂を贈ったならば…。
(左遷どころか、解任だろうな)
 国家騎士団から放り出されて、人類統合軍の下っ端とか。それにもなれずに、警備員とか。
 そんな結末が見えているのに、セルジュとパスカルは揃って配属されて来た。有り得ないような人事異動で、マザー直々の選抜で。


 トップの二人を眺めただけでも「濃すぎる」と分かる、自分の部下。
 かてて加えて、他の面子もユニークさの点では半端なかった。軍人たるもの、こうあるべき、と思う形から外れまくりに思える面子。誰を取っても、誰のデータを見てみても。
(…いったいマザーは、何を思って…)
 此処までアクの強い奴らを選んで寄越したのだ、と掴めない意図。
 もしかしたら試されているのだろうか、彼らを見事に御せるかどうか。キース・アニアンの器を知ろうと、「お手並み拝見」とマザーが選んで来ただとか。
(そういうことなら、分からないでも…)
 教官時代に手を焼かされた奴らが揃うのも、と零した溜息。「テストだったら仕方ない」と。
 彼らを立派に使いこなせたら、晴れて自分も一人前。
(ゆくゆくはパルテノンに入って…)
 元老になって国家主席だ、と目標は高く果てしなく。
 メンバーズとして歩むからには、其処まで昇り詰めてこそ。トップの地位に就いてこその人生、そうでなければ甲斐がない。
(グランド・マザーに気に入られてだな…)
 出世街道を走り続けてやる、と戯れに触れたコンソール。机に備え付けのもの。
 個人的な部屋の備品とはいえ、今の地位なら国家機密にもアクセス可能。
(…グランド・マザーの趣味を確認しておくか…)
 部下どもは嫌われている筈だからな、と打ち込んでいったセルジュたちの名前。ついでだからとパーソナルデータも、覚えている分を入れてゆく。ジルベスターから加わった部下を。
(マツカは無関係だから…)
 セルジュにパスカル、とザッとブチ込んで、データベースを検索させた。
 グランド・マザーが嫌悪しそうな部下たち、誰が一番マザーの好みに合わないのか、と。
 そうしたら…。
(嘘だろう!?)
 何故だ、と見開いてしまった瞳。
 その条件で開示された情報、其処にはグランド・マザーが与えた承認の印。「素晴らしい」と。
 並ぶ者なき騎士団員たち、彼らこそ理想の国家騎士団員だ、と。


(何故、そうなる…!)
 マザーが嫌いそうな面子ばかりの筈なのに、と慌てて変えた検索条件。
 どう転がったら、これがマザーの理想なのかと、信じられない面持ちで。「有り得ないぞ」と。
 とにかく理由を提示するよう、メンバーズとしてのIDなども叩き込んだら…。
(……なんだ、これは?)
 画面に大きく表示された文字、「風と木の詩」という代物。
 「詩」と書いて「うた」と読むとの情報、SD体制が始まるよりも遥かに遠い昔に描かれた…。
(…びーえるの走り…?)
 BLとは何のことだろうか、と深まる疑問。それから「風と木の詩」という漫画。
 どちらもグランド・マザーの好みで、繰り返し思考しているらしい。詩的だという作風だとか、綺羅星のような登場人物について。
(…ふうむ…)
 ならば私も勉強すべきか、と思った「風と木の詩」。
 迷わずデータを全て引き出し、早速、読もうとしたのだけれど。
(……………)
 もう冒頭から唖然呆然、肌色満載のページが出て来た。男同士のベッドシーンで、それは激しく絡み合う二人。それこそ最初のページから。
(…この本は思考に値するのか!?)
 分からん、と投げたい気分だけれども、如何せん、グランド・マザーのお気に入りの本。途中で投げたとマザーに知れたら、自分が失脚しかねないから…。
(…ジルベール・コクトー…)
 「我が人生に咲き誇りし、最大の花よ」と始まる物語をヤケクソで読んだ。泣きの涙で。BLの趣味など無いというのに、忍の一字で。
(このジルベールの相手役がセルジュ…)
 褐色の肌の少年なのか、とスタージョン中尉と被った「セルジュ」。
 読み進めたら、パスカルという名の男も出て来た。無精髭のパスカルに激似の男で、セルジュとジルベールの周りを固める連中は…。
(どいつもこいつも、見たような奴らばかりではないか…!)
 私の部下だ、と遅まきながら理解した。どうしてセルジュでパスカルだったか、アクが強いか。


 グランド・マザーが好きな「風と木の詩」、何度も思考し続けるそれ。
 上手い具合に、面子が揃っていたらしい。セルジュにパスカル、彼らを取り巻く人物とそっくり同じな、名前や見た目の人材が。
(……風と木の国家騎士団員……)
 それを押し付けられたようだ、と気付いたからには、回避したいのが最悪の事態。
 幸か不幸か、まだ現れてはいない人物、その登場を避けねばならない。
「マツカ! …マツカはいるか!?」
 急いで来い、と肉声と通信と思念とのコンボ、大慌てで走って来たマツカ。とうに夜だったし、部屋でシャワーでも浴びていたのか、髪に水滴をくっつけて。
「お呼びですか?」
 大佐、と敬礼するマツカに、「この情報を皆に伝えろ」と顎をしゃくった。メモを差し出して。
「いいな、こういう名前の人物が来たら、門前払いをするように」
 決して配属させてはならん、と渡したメモに、マツカが目を落として…。
「ジルベール…。コクトーですか?」
「そうだ。ジルベールだろうが、コクトーだろうが、却下だ、却下!」
 特に金髪の奴は駄目だ、と念押しをした。「緑の瞳の奴も却下だ」と、そんなジルベールは特にいかん、と。
「…分かりました。ジルベールとコクトーは駄目なんですね?」
「ああ。マザー直々の選抜だろうが、断固、断る」
 絶対にジルベールを入れてはならん、と凄んだキース。もしも配属されて来たなら、他の部署に異動させるようにと。「キース・アニアンの部下にはさせん」と。
 かくして忠実なマツカは駆け去り、命令は周知徹底されて…。


(…キース・アニアン…。私の好意を無にするとはな…)
 もう少しで「風と木の国家騎士団」が完成していたものを、と呻くグランド・マザー。
 やっとのことで「理想のジルベール」を発見したのに、受け入れ先が無かったから。辺境星域の基地に戻すしかなくて、キースの部下には出来なかったから。
(…ジルベールさえ送り込めていたなら…)
 耽美な騎士団になったものを、とグランド・マザーが嘆いている頃、キースの方は…。
「よくやった、マツカ! 断ったのだな、ジルベールを?」
「はい。ですが、良さそうな人材でしたよ?」
 成績優秀、見た目も上品な美少年で…、と答えるマツカは何も知らない。「風と木の詩」という漫画のことも、グランド・マザーの隠れた趣味も。
「どんなに優秀な人材だろうと、ジルベールだけは御免蒙る!」
 下手をしたなら規律が乱れてしまうからな、と吐き捨てるキースにBLの趣味は無かった。
 欠片さえも持っていないのだけれど、濃すぎる部下たち。
(…グランド・マザーが選んだせいで…)
 ずっと奴らと珍道中か、と尽きない苦悩。
 ジルベールの登場は阻止したけれども、他は揃っているものだから。傍から見たなら、リーチでテンパイ、そんな具合の面子だから。
(…ジルベールだけは来てくれるなよ…)
 私はマザーのオモチャではない、と握った拳。
 「風と木の詩」に萌えてはいないし、思考する趣味も持ってはいない。軍人の世界に「耽美」は不要で、そんなブツなど持ち込めば負ける。
 「部下のせいで敗れてたまるものか」と、「ミュウに勝たねばならないからな」と…。

 

          風と木の騎士団・了

※アニテラに出た「風と木の詩」な面子。セルジュとパスカルしか分からなかった管理人。
 なんとも濃かった騎士団だ、と思ったトコから、こういう話に。ジルベール不在でしたしね。








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