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アルビノを目指せ

(力だけではソルジャーになれん、って…)
 ゼルのヤツ、言ってくれるじゃん、とジョミーは部屋でへこんでいた。
 今日も今日とて、長老たちは「集中力が持続しない」だのと言いたい放題。来る日も来る日も、ひたすら訓練。サイオンに磨きをかけているのに…。
(力だけでは、って言われても…)
 他にいったいどうしろと、と嘆くしかない。
 ソルジャー候補に据えられたけれど、現ソルジャーのブルーとの差は月とスッポン。もちろん、月はブルーの方だし、スッポンは自分に決まっている。
(あっちは超絶美形でカリスマ…)
 比べて、ぼくは超平凡で、と言われなくても分かる自分の限界。
 アタラクシアでソルジャー・ブルーの夢を見ていた時から、もう「敵わない」と悟った敗北。
 夢に出て来た美少女なフィシス、相手役のブルーは「絵に描いたような」二枚目キャラ。それもスキルが半端ない美形、顔立ちに加えてアルビノと来た。
(…アルビノってだけでも、ビジュアル五割増しだよね…)
 いやいや、此処は八割だろうか、もっと上がって九割だろうか。
 透き通るような肌と銀色の髪もさることながら、あの神秘的な赤い瞳が凄すぎる。誰の心だって鷲掴みだろうし、第一、赤い瞳の持ち主なんて…。
(そう何人もいないってば…)
 せめてブルーがアルビノでなければ、と陥ってしまうドツボな思考。
 アルテメシア上空でブルーに見せられた過去の記憶では、サイオンに目覚める前のブルーは…。
(普通に金髪で、水色の目で…)
 あのままだったら、ビジュアル勝負になったとしたって、今よりは健闘出来ただろう。顔立ちやパーツで負けていたって、「神秘的」というアルビノ効果が無かったら。
(…いくらブルーがカリスマだって…)
 今ほどの差は開かないんじゃあ、と溜息しか出ない。
 そうは思っても、アルビノ効果はバッチリだから。ブルーの魅力をググンとアップで、あれには勝てっこないのだから。…アルビノではない自分には無理。平凡なカラーの自分では。


 日頃から感じるコンプレックス、「勝てやしない」と思うカリスマ。超絶美形な現ソルジャー。
 事あるごとに落っこちるドツボ、今日だってゼルが落としてくれた。
 「力だけではソルジャーになれん」と、容赦なく。
 ゼルは言葉にしなかったけれど、心の中では、きっと思っているのだろう。「クソガキが」と。
 「どうして、こんなガキに従わねばならんのじゃ」とも。
(…どうせ、超絶美形じゃないし…)
 顔もカラーも平凡ですよ、と今日もグチグチ。「ぼくもアルビノだったら」と。自分にも欲しいアルビノ効果に、アルビノ補正。
(…ぼくだって、赤い瞳なら…)
 どんなにアップしただろう。神秘的なイメージ、それに加えて近寄り難さ。
 金髪に緑の瞳のジョミーは、ごくごく平凡なキャラだけれども、銀髪に赤い瞳だったら…。
(…一気に神秘的だよね?)
 今よりもずっと、と零れる溜息。
 いっそ脱色しようかと。髪の毛の色を抜いてしまえば、きっといい感じに銀髪になる。
(でもって、美白効果のある何か…)
 化粧品には疎いけれども、注文したら部屋に届けて貰えそう。それでせっせとお肌の手入れで、抜けるような肌を手に入れる。ブルーにも負けない、真っ白な肌を。
(もうそれだけで、今より相当いい感じ…)
 銀髪に透き通るような肌。其処へ緑の瞳だったら、その緑色も引き立つ筈。
 ブルーの赤い瞳がルビーのようだと言うなら、こちらの瞳はエメラルド。まるで野生のヒョウのような瞳、負けてはいないという気がする。ブルーの「赤」に。
(…白い肌で銀髪、でもって瞳が緑色…)
 いい感じじゃん、と自分でも思う。
 本物のアルビノ効果には及ばないまでも、少しくらいは近付けるのでは、と。
 そういうビジュアルに変化したなら、「ごく平凡なジョミー」もイメチェン出来そうだよ、と。


(えーっと…?)
 念のために、と鏡の前に立ってみた。真っ白な肌で銀髪のジョミー、それをイメージ。
 こんな感じ、と思い描いて、自分の顔と姿に被せて、ガッツポーズ。
(ブルーが神秘の赤で来るなら、ぼくは神秘の緑色だよ!)
 いける、と覚えた確かな手応え。
 本物のアルビノになるのは無理でも、美白に脱色、それで一気に「神秘のジョミー」。
 その姿ならば、他のミュウたちも一目おいてくれるだろう。「平凡なジョミー」の今よりは。
(よーし…!)
 やるぞ、と固めたイメチェンの決意。
 まずは美白で白い肌から、そこそこ効果が出てきたら…。
(…髪の毛を脱色して、銀髪…)
 それで出来上がる「神秘のジョミー」。ソルジャー・ブルーに負けないカリスマ。
 顔立ちは今と変わらなくても、雪のような肌に透ける銀髪、其処へ緑の瞳だから。エメラルドの色に輝く瞳は、野生のヒョウだか、あるいは雪の女王だか。
(…雪の女王は女だけどさ…)
 雪の王様じゃイメージがイマイチ、と「雪の女王」にしておいた。
 同じ雪でも、神秘的な雰囲気を醸し出すのは、圧倒的に「雪の女王」だから。「雪の王様」だと白髪のジジイで、年寄りっぽいイメージだから。
(…野生のヒョウで、雪の女王なジョミー・マーキス・シン…)
 そのビジュアルならブルーに今ほど負けはしない、と溢れる自信。
 太陽のような今の金髪も好きだけれども、ブルーに惨敗し続けるよりは、銀髪なジョミー。
(…肌の色だって、今は健康そのものだけど…)
 ブルーみたいに白くなったら、間違いなく得られる「儚げ」な感じ。
 ミュウは虚弱な者が多いし、やたら「健康的」な肌より、ちょっと病的なくらいが良さそう。
(美白に、脱色…)
 それでいこう、と心に決めた。
 「力だけではソルジャーになれん」とゼルも言ったし、ビジュアルの方も頑張らないと、と。


 こうして方針は定まったけれど、問題は美白。それから脱色。
(髪の毛を脱色するだけだったら…)
 きっと自力でも何とかなる。その効果がある薬品を調べて、船の倉庫から失敬したら。
 それに髪の毛だし、専用のアイテムもありそうな感じ。自分は最初から金髪だけれど、他の色の髪に生まれた女性が金色の髪に染めるケースもあるのだし…。
(金髪を銀髪に変えられる脱色剤とかだって…)
 存在しているのに違いない。シャングリラにだって、同じアイテムがあっても不思議ではない。
 女性はお洒落が好きなものだし、茶色の髪より金髪がいい、と脱色だとか。そういう女性が多くいるなら、ニーズがあるのが毛染めや脱色。
(そっちは楽勝なんだけど…)
 情報さえゲット出来たら楽勝、けれど美白はハードルが高い。なにしろ相手は化粧品。
 どう考えても女性が愛用しているアイテム、それも毎日使っていないと効果を実感出来ない筈。手抜きしたなら、たちまち前の「健康的な肌」に逆戻り。
(…化粧品なんか、どうやって…)
 何処からゲットで、継続的に使えばいいのだろう?
 女性だったら問題なくても、男性の自分が美白用の化粧品なんて…、と悩んでいたら。
『…ジョミー?』
 何か悩みがあるのかい、と届いた思念。
 抜けるような肌のブルーから。アルビノ効果をMAXに背負った、超絶美形のカリスマから。
「ブルー!? えっとですね…」
 化粧品って何処で貰えますか、と思わず滑ってしまった口。ついウッカリと本音がポロリ。
 ブルーはと言えば、「化粧品?」と、暫くポカンとしていたけれど…。
『…分かった。ぼくのような肌になりたいわけだね?』
 君は、と確認の思念が来たから、「はい!」と答えた。「でないと駄目です」と。
 今のままでは「平凡なジョミー」で、「力だけでは、なれない」ソルジャー。ビジュアルだって大切なのだし、自分なりに決意したのだから。ブルーに負けない人になろう、と。
「お願いします! ぼくは、少しでもあなたに…」
 近付きたいと思うんです、と真正面からぶつけた決意。ブルーは納得してくれて…。


(…寝る前に、まずはクレンジングで…)
 これを使って洗い流しながらマッサージ、とジョミーが眺める洗面台の鏡。自分の部屋で。
 顔にたっぷりとクレンジングクリーム、「これがいいよ」とブルーが教えてくれたもの。
(透き通るような肌になりたかったら、毎日の努力が大切で…)
 ブルーも手入れを欠かさないんだものね、と教わった通りにマッサージ。それは丁寧に。
 超絶美形なブルーが言うには、「美白は一日にして成らず」らしいから。あの透き通るような、美肌の方も。
(…アルタミラからの脱出直後は、ブルーもお肌ガサガサで…)
 エラやブラウが見かねて手入れしてくれたという。「せっかくの美形が台無しだから」と。
 そうこうする内にブルーも覚えた、お肌の手入れ。
(ソルジャーになって、超絶美形なカリスマでいようと思ったら…)
 どんなに疲れている時だって、お肌の手入れは念入りに、と親切なブルーは教えてくれた。
 「君が自分で気付いたのなら、これから頑張ってゆけばいい」と。
 美白効果のある化粧品はコレとコレで…、と揃えて部屋に届けてくれたし、今夜からはせっせと努力あるのみ。「平凡なジョミー」から「神秘的なジョミー」になるために。
 真っ白な肌をゲットしたなら、お次は髪を脱色だよ、と。
(…頑張らなくちゃ…)
 手入れだけでも一時間はかかるらしいよね、と鏡に向かうジョミーの姿を、青の間のベッドから見ているブルー。「これでいい」と。


(…目標が多少ズレていようが、美白だろうが、要は努力で…)
 一時間も集中できるようになれば、ジョミーの集中力も劇的にアップするから、とブルーは実は腹黒かった。美白効果のある化粧品は確かに届けさせたのだけれど…。
(…それだけで真っ白な肌になるなら、ぼくのカリスマも地に落ちるってね)
 ソルジャーはビジュアルだけじゃないんだ、とブルーが求める集中力。長老たちと全く同じに。
 それを狙って大嘘をついて踊らせたジョミー、当分は努力の日々だろうから…。
(一ケ月もすれば、もう劇的に…)
 集中力アップ、とブルーが笑っているとも知らずに、ジョミーは頑張る。肌の手入れを。
 まずは美白で真っ白な肌で、それを手に入れたら髪を脱色。銀色の髪になるように。
(抜けるような肌で、銀色の髪になったなら…)
 ぼくも狙えるアルビノ効果、とアルビノ補正に大きな期待。
 「平凡なジョミー」は卒業だ、と。
 銀色の髪に透き通るような肌、緑の瞳が神秘的なビジュアルにならなくちゃ、と。
 力だけでは、ソルジャーになれないらしいから。
 超絶美形なブルーに顔では負けるけれども、イメチェンしたなら、今よりは差が縮む筈。
 だから頑張る、と鏡の前で格闘中。今日から始まる美白の日々。
 効果が出たなら、凄いジョミーが出来るから。
 さながら野生のヒョウなイメージ、でなければ雪の女王みたいな神秘のジョミー誕生だから…。

 

         アルビノを目指せ・了

※超絶美形なブルーに敵わないなら、せめてアルビノの雰囲気だけでも、と思ったジョミー。
 方向性としては、それも間違いではなさそうですけど…。その努力、ブルーが笑ってますよ?








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