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ミスった人質

「まずは人質を一人、解放しよう。受け取れ!」
 そう言ってキースがブン投げた人質、片手でも投げられるトォニィ。
 シャングリラの格納庫から逃亡するべく、やったのだけれど。
(その手には乗るか!)
 年寄りを舐めるんじゃねえ、若造が! とキッと睨んだのがソルジャー・ブルー。
 ダテに長生きしてはいないし、ソルジャーの看板を背負ってもいない。
 あまりにも長く眠っていたから、身体にガタは来ているものの、判断力は至って正常。
 キースがポイと投げ捨てた子供、そっちに行ったら見えている負け。人質はもう一人残っているから、何の解決にもならない結末。
 だから一瞬で飛ばしたサイオン、まだその程度は使えるから。
(床に落ちたら、これでガードだ!)
 何処から落ちても守れる筈だ、とトォニィの周りに張ったシールド。
 それが済んだらマッハの速さで振り向いた先に、逃げてゆく地球の男が見えた。明らかに勝ちを確信している様子で、フィシスの手首を引っ掴んで。
「ブルー! ソルジャー・ブルー!」
 フィシスが悲鳴を上げているから、「落ち着け」と思念で送った合図。ついでに「黙れ」と。
『ブルー?』
 サッと思念波に切り替えたのがフィシス、「いいから黙れ」とリピートした。あまり消耗したくないから、これ以上は御免蒙りたい。
 でもって急いだ、キースが乗ろうとしているギブリへ。
 さっきトォニィの方へと行かなかった分、なんとか残っていた体力。
 キースは前しか見ていないから、余裕で追えた。自分も後から乗り込んだ後は、座席の陰に身を隠した次第。隙間からキースが見える場所へと。


 馬鹿め、と眺めた「逃げ切ったつもりの」地球の男、キース。
 ギブリはミュウが開発した船だからして、人類の船とは少しばかり違う。いくらメンバーズでも初見でサクッと発進は無理で、手間取っているのが面白い。
(しかし、マニュアルに忠実な奴…)
 わざわざフィシスにシートベルトを着けてやるのが、傑作の極みと言うべきか。どうせ生かしておく気も無いのに、もう人質の価値も無い筈なのに。
 このシャングリラから逃げさえしたなら、関係無いのが人質の生死。誰も確認しては来ないし、これが自分だとしたならば…。
(…ぼくだけシートベルトだな)
 人質の世話までやってられるか、と呆れてしまったマニュアル男。
 なにしろキースは、シートベルトの着け方だけでも四苦八苦していたものだから。
 自分の席のを着けるだけでも「なんだ、これは?」と悩みまくりで、やっと着けても他人の分を着けるとなったら、また一苦労。
(思いっ切りの時間ロスだし…)
 フィシスは放っておけばいいのに、と漏らした苦笑。「本当に馬鹿だ」と。
 そのキースはと言えば、今はエンジンと格闘中。「これか?」「こうすればかかるのか?」と。
 まあ、間違ってはいないけれども、なんとも命知らずな男。
 エンジンの掛け方も分からないような謎の機体で、宇宙に向かって逃げようだなんて。
(一つ間違えたら、死ねるんだけどね?)
 ただの人類なんだから、と思うけれども、あちらも必死なのだろう。
 此処で宇宙に逃げ損なったら、捕まって捕虜に逆戻りだから。


 フィシスには「黙れ」と言ってあるから、これから先はこっちのターン。
 余計なのが一人乗り込んだことに、キースは気付いていないのだから余裕は充分。かてて加えてミュウの特性、それが有利に働いてくれる。
(サイオンは、貸し借り可能なわけで…)
 その上、地球の男と同じ生まれなフィシス。元はミュウではなかった存在。ミュウに変えたのは自分のサイオン、だから余計に借りやすい。こうして隠れている間にも…。
『聞こえるか!?』
 シャングリラのブリッジに飛ばしたのが思念、直ぐに返って来た返事。
 「ソルジャー・ブルー!?」と、仲間たちのがドッサリと。それに応えてサクサク送信。
『格納庫に医療スタッフを寄越してくれ。子供が一人倒れている』
『子供ですか!?』
 あなたは何処に、と届いたキャプテンの思念、「まだ格納庫だ」と返してやった。
『もうすぐギブリが発進する。ぼくとフィシスも乗っているから、撃つんじゃない』
『どういうことです?』
『地球の男が、フィシスを人質に取った。ぼくは勝手に乗り込んだだけで…』
 まだ気付かれていないから、と送った途端に、やっと掛かったらしいエンジン。とはいえ、まだ開かないのが格納庫の出口、またまた苦労しているキース。
『まだ暫くはかかりそうだが…。地球の男と行ってくる』
『しかし、あなたは…!?』
『大丈夫。ダテにソルジャーをやってはいないよ』
 ジョミーは何処に、と訊いてみたらば、シャングリラにはいないとのこと。
 そういうことなら臨機応変、出たトコ勝負でいいだろう。サイオンは充分、使えるのだから。


 かくしてキースは、フィシスを人質に取ったつもりで逃げ出した。…シャングリラから。
 格納庫に置いて来たつもりのタイプ・ブルーが、乗り込んだとは気付かないままで。
 それも伝説のタイプ・ブルー・オリジン、彼に「ヤバイ」と思わせたミュウ。手段を選んでいる余裕など無いと、人質の子供をブン投げておいて逃げるべきだ、と。
 その厄介なタイプ・ブルーが乗っていた上、只今、順調にサイオンを回復中だというのが怖い。
(人質がフィシスだったというのが好都合…)
 他の誰よりも、ぼくとサイオンの相性がいいわけだから、とニンマリ笑っているブルー。
 そうとも知らないのが地球の男で、彼に何処からかコンタクトして来たのがミュウらしき部下。これは使えると思ったのだろう、地球の男は船の動力炉を暴走させた。
 早い話がギブリを爆破で、それに紛れて逃げる算段。部下のサイオン・シールドで。もう絶好のチャンス到来、颯爽と立ち上がったブルー。座席の陰から。
「…その辺で止まって貰おうか」
 格納庫でさっき自分が言われた台詞を、まるっとパクッて決め台詞。
「き、貴様は…!?」
 何故だ、と顎が外れそうになったのがキース、慌ててフィシスの首を掴もうとしたけれど。
 先刻ブルーが張ったシールド、フィシスに手出しは不可能だった。地球の男はまさにリーチで、動力炉は絶賛暴走中。
「この船から逃げるつもりのようだが…。せっかくだから、選ばせてやろう」
 此処に残って爆死するのか、ぼくと大人しく船に戻るか。
 選ばないなら、こちらで決める、とブルーが浮かべた笑み。「死んで貰うのが良さそうだ」と。
「ま、待て…!」
 少し考えさせてくれ、と地球の男が慌てる間に、船は爆発したものだから…。


『ブルー!?』
 其処へ折よく飛んで来たジョミー、実にナイスなタイミング。丁度いいから、フィシスは任せることにした。ブルーはと言えば、地球の男をガッツリ捕獲で、首に縄ならぬ自分の両手。
「さて…。このままギリギリ絞められたいか?」
 多分、絞め殺せると思うが、とグッと入れた力、動けないのが憐れなキース。
 そうする間に逃げてゆくのが、ミュウらしき部下が乗っている船。アレもあった、と思い出したから、「やってしまえ」とジョミーに顎をしゃくった。「アレを逃がすな」と、先のソルジャーの冷静さでもって。
 「はいっ!」と威勢よく返事したジョミー、フィシスをしっかり抱えたままで追い掛けて…。
 やや間があって起こった爆発、じきにジョミーは戻って来た。
 「やっぱりミュウが乗っていました」と、気絶している乗員をフィシスとセットで抱えて。
「マ、マツカ…!?」
 地球の男は部下を見るなり顔面蒼白、心拍数もドッと跳ね上がったけれど。
 ブルーがガシッと掴んだ首から、もうドクドクと血流の音が伝わるけれども、地球の男が諸悪の根源。ガクブルだろうが、心臓バクバクだろうが、知ったことではないわけで…。
「ジョミー、細かい話は後だ。とにかく、こいつを連れて戻ろう」
「そうですね! 利用価値があるかどうかは知りませんけど…」
 心が全く読めないもので、と困り顔のジョミー、「そうなのかい?」とキョトンとしたブルー。
 自分にかかればサクッと読めたし、生まれも分かってしまったから。
 きっとこの先も色々と読めて、利用価値だって、たっぷりだから。


 そんな最強のタイプ・ブルーに、捕獲されたのがキースの運の尽き。
 シャングリラに連れ戻された地球の男は、それはエライ目に遭わされた。
 地球の機密を吐かされた挙句、人質に取られてしまったオチ。
 「人質を一人解放しよう」と逃げた筈の船で、今度は自分と部下が人質。
 ミュウにしてみれば棚からボタモチ、もう早速にかけた脅しはこうだった。
 グランド・マザー宛てに、堂々と。
 「未来の指導者を捕獲しているが、これを処分していいだろうか?」と。
 グランド・マザーはビビッたけれども、キースの代わりに新しいのを育成するには、三十年近くかかるという悲しい現実。
 これではどうにもならないからして、飲まざるを得なかったミュウの要求。
 彼らが何処かへトンズラするまで、一切、攻撃しないこと。
 おまけに、ナスカことジルベスター・セブンで、シェルターに閉じ込められているキース。彼とマツカを回収するのは、ミュウの船が消えてから一週間後という条件も。
 グランド・マザーが歯噛みする間に、悠々と無傷で逃げてしまったシャングリラ。
 一週間が経って、もう良かろうと、グレイブことマードック大佐が救助に駆け付けてみたら…。
 シェルターの中のキースとマツカは、まるっとサクッと、身ぐるみ剥がれていたらしい。
 「縛るよりかは人道的だ」という、ソルジャー・ブルーの判断で。
 一週間も放置プレイなのだし、縛っておくのも気の毒だろうと、温情たっぷりの命令で。


 こうしてシャングリラはナスカから消えて、暫くの間は静かな日々が続いたけれど。
 後に人類が、ミュウにアッサリ敗北したのは、当然と言えば当然の結果。
 国家主席になったキースは、ミュウの怖さを嫌というほど、味わい尽くしていたわけだから。
 ソルジャー・シンの背後で院政を敷いた、伝説の男、ソルジャー・ブルー。
 彼に歯向かったら何が起こるか、知っていたから掲げた白旗。
 仰せにキッチリ従いますと、ノアでも地球でも、ご自由にお持ち下さいと…。

 

        ミスった人質・了

※ブルーがトォニィの方に行かなかったら、流れは変わっていたんじゃあ…、と。
 サイオンの貸し借りは多分出来る筈、ジョミーも「ソルジャー、生きて!」だったしね。





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