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楽しみなガチャ

「ったく…。ジョミーは、なんとかならないのかい?」
 まるで駄目じゃないか、と呆れ果てた顔をしているブラウ。長老たちが集った席で、お手上げのポーズを取りながら。
 今日の議題は、ソルジャー候補の「ジョミー」について。
 船に来て直ぐには何かと騒ぎを起こしたジョミーも、今はソルジャー候補ではある。毎日のように訓練に励み、サイオンを鍛えているのだけれど…。
「全く成果が上がりませんね…。本当に、どうすればいいのでしょう」
 エラも悩むのが、ジョミーの現状。ヒルマンもゼルも、ハーレイだって。
「…破壊力だけは、あるんじゃがのう…。如何せん、コントロールが出来ておらん」
「集中力に欠けているのだよ。しかし、こればかりは、教えてどうなるものでもないし…」
 ジョミーが自覚しないことには…、とヒルマンも考え込んでいる。「教授」と異名を取るほどの彼でも、ジョミーの指導は難しかった。「集中力」は「教えられない」だけに。
「困ったものだ…。ゲームのようにはいかないな」
 キャプテンの眉間に刻まれた皺が深くなる。これがゲームのキャラクターなら、戦闘などの数をこなせば、能力がアップしてゆくもの。集中力がモノを言うなら、それだって。
 ところがどっこい、「ジョミー」はゲームのキャラではない。集中力アップの戦闘は無いし、戦闘抜きでスキルアップなアイテムだって、存在しない。
 ゆえに「どうにもならない」のが今、ジョミーのパワーは破壊力だけ。
 ミュウの能力に覚醒した時、ユニバーサルの建物を半壊させた、あの力。それしか無い上、コントロールする能力さえ無い。トレーニングルームで「暴れる」だけのソルジャー候補。
「…こう、集中力がググンと上がるアイテムがじゃな…」
 この船にあればいいんじゃが、とゼルまでが現実逃避を始めた。「滅多に出ないレアもの」だろうが、それがあるならゲットする、などと、ゲームよろしく言い出して。
「ちょいとお待ちよ、集中力のためにガチャをするのかい、アンタ」
 やめておきな、とブラウが止めた。「課金は、お勧め出来ないよ」と、顔を顰めて。
 実はシャングリラにも、その手のゲームは存在していた。なにしろ娯楽の少ない船だし、ゲームの類は欠かせない。射幸心を煽るガチャにしたって、キッチリある。
「…分かっておるわい。ワシはガチャには向いてはおらん」
 システムを弄ってやらん限りは、ゴミしか引き当てられんでな…、とゼルは経験済みだった。船で人気が高かったゲーム、それのガチャで「すっかり」すってしまって。


「なんだって!? システムに細工をしたのか、ゼル!?」
 それはキャプテンとして許し難い、とハーレイが睨んで、暫くの間、バトルになった。やたらとメカに強いのがゼル、ゲームのシステムに細工したなら、セコすぎるから。
「じゃから、一度しかやっておらんわい! ガチャに細工なぞ!」
「一回だろうが、百回だろうが、やったことには変わらんだろうが!」
 もうギャーギャーと派手に喧嘩で、ブラウやエラは「我、関せず」と茶を啜っていた。ヒルマンも喧嘩を横目で見ながら、「小休止か…」と苦笑い。
 議題はジョミーの話からズレて、ガチャの確率がどうのこうのと、激しく低レベルな争い。ゼルに文句をつけたハーレイ、彼も直接システムを弄りはしなかったけれど…。
「同じ穴のムジナと言うんじゃ、それは! 当たりの確率を上げさせたなどは!」
「やかましい! あれはキャプテン権限だったし、正当なのだ!」
 船の仲間の士気を上げるのもキャプテンの役目、というのがハーレイの言い分。ガチャでレアものが当たる確率、それを期間限定でアップさせるのも仕事の内だ、と。
 シャングリラの中では数少ない娯楽、たかがゲームでも侮れない。期間限定でガチャの「当たり」が増えるのだったら、士気が高まる。
 「サッサと今日の仕事を終わらせて、ガチャをしないと」といった具合に。ゲームをプレイできる時間を確保しないと、ガチャをすることが出来ないから。
 現に劇的に高まるのが士気、機関部だろうと、農場だろうと。
 そのために「ガチャの当たりの確率を上げろ」と指示していたのが、キャプテン・ハーレイ。仕事には違いなさそうだけれど、ゼルにしてみれば…。
「そう言うお前も、たまにゲームをしておるじゃろうが! そこが問題じゃ!」
 ガチャに有利な期間だけではあるまいな…、というツッコミ。普段は「ゲームをやっていない」のに、有利な時だけ参戦するなら、「自分のために」ガチャを弄っているも同然、と。
「…うっ…。しかし、同じゲームをするのだったら、やはり有利に進めたいもので…」
「お前の仕事が暇な時を狙って、確率アップの期間を組むんじゃろうが!」
 このクズめが、とゼルが食って掛かって、ハーレイの方も負けてはいない。「私は、全財産をすってしまうほど愚かではない」と、「ガチャで全部すった」ゼルを詰って。
「すってしまって懲りた輩に、文句を言われる筋合いはない!」
「なんじゃと、公私混同のデカブツめが!」
 やる気か、とゼルがファイティングポーズを取った所へ、不意に思念が飛び込んで来た。
 『ガチャがいいだろう』と、青の間から。


「「「ガチャ?」」」
 それはいったい…、と止まったバトルと、茶を啜るのをやめたブラウたち。
 青の間から思念を飛ばす者など、このシャングリラには一人しかいない。青の間の主で、ミュウたちの長の「ソルジャー・ブルー」の他には、誰一人として。
 思念を寄越したソルジャー・ブルーは、「ガチャだ」と思念で繰り返した。
『ゼルは全財産をガチャですったし、ハーレイは当たりの確率を上げさせたのだろう?』
「そ、そうじゃが…。そうなんじゃが…」
「はい、ソルジャー。ですが、私のは仕事の範囲のことでして…」
 公私混同はしておりません、と言い訳しつつも、ハーレイの顔色は悪かったりする。本当の所は「ちょっとくらいは」、入っていたのが私情だから。「この期間なら私も暇だ」と、当たる確率アップの期間を決めたりして。
『…ガチャはシャングリラの士気を上げるし、立派なアイテムだと思うんだが…?』
 ジョミーの集中力をアップさせるのにも使えそうだ、とソルジャー・ブルーは、のたまった。
 曰く、ジョミーに必要なものは「集中力」と同時に「やる気」。
 ジョミーが「やるぞ」と思いさえすれば、集中力は後から「ついてくる」もの。よって、今後の訓練については、ガチャの要素を導入すべし、と。
「ガチャですか…?」
 ジョミーはゲームをしていませんが、と答えたハーレイ。
 まだ駆け出しの「ソルジャー候補」は、サイオンの特訓に、ミュウの歴史やその他の座学と、まるで暇など無い状態。
 だからゲームなど出来るわけがないし、ゲーム機も貸与されてはいない。そんなジョミーが、何処でガチャを…、とハーレイも、他の長老たちも、まるで全く掴めない意味。
 ゲーム機も無いのに、ガチャは出来ない。それにゲームをする時間も無い、と。
『…だからこそだ。ジョミーにゲーム機を与えたまえ』
 遊びすぎで廃人にならない程度の、ゆるいゲームを開発して…、とブルーは言った。一日のプレイ時間が十五分もあったらオッケーなゲーム、それを急いで開発させろ、と。
「「「…十五分?」」」
『そうだ、十五分だ。ジョミーの暇は今、そのくらいが限度だろうから』
 でもって、其処にガチャを組み込め、というのがブルーの指図。ジョミーが全財産をブチ込みそうな、レアなアイテムを、ガンガンぶっ込んで。


『ジョミーが燃えそうなゲームを頼む。ついでに、ガチャの当たりの確率は下げろ』
 全財産がパアになっても、まるで当たりが引けないほどに…、とブルーの笑いを含んだ思念。その状態でも、ジョミーは「ガチャをやりたい」だろうし、其処が狙いだ、と。
「は、はあ…。ですが、それとジョミーの集中力の関係は…?」
 解せませんが、とハーレイが訊くと、ブルーはクスクス笑い始めた。
『まずは、ジョミーはゲームをやりたい。…プレイ時間を確保しないと駄目だからね』
「…そうじゃろうな。ハーレイも自分の都合に合わせて、ガチャが有利な期間をじゃな…」
 キャプテン権限で決めておったほどじゃし、とゼルが頷く。「プレイ時間が無かった場合は、ガチャをやる以前の問題じゃ」と。
『そうだろう? ゲームの時間を長く取りたければ、訓練を早めに終えるしかない』
 好成績を上げた場合は、時間短縮になるのだから、とのブルーの指摘。サイオンの訓練で点数が低いと「やり直しだ!」と怒鳴られるけれど、高得点なら「一回で終わる」時もある。
「…ゲームのためにと、得点がアップするのですか?」
 確かにあるかもしれませんが…、とエラが頷き、ブラウもヒルマンも否定しなかった。サッサと終えて「ゲームをしたい」と思う気持ちが、ジョミーの「やる気」をググンとアップで、その結果として、集中力もアップかも…、と。
『その通りだ。…座学の方にしても同じで、ノルマをこなせば終わるのだから…』
 居眠ったり愚痴を零しているような暇があったら、その時間をゲームに回すだろう、とブルーの読みは深かった。プレイ時間の捻出のために、ジョミーは努力する筈だ、と。
「で、では…。ガチャの確率を下げるというのは、どういう意味が…?」
 全財産がパアになったら引けませんが…、というハーレイの問いに、ブルーは「常識で考えたまえ」と返して来た。
『全財産をすったジョミーが、それでもガチャを引きたいのなら…。誰に縋れる?』
 この船でジョミーに「金」を貸しそうな面子は誰だ、とのブルーの質問。全財産をすった後には、借金一筋なのだけれども。
「借金ですか…。我々くらいしかいないでしょうが…」
 懐に余裕がありそうなのも、ジョミーが無心できそうなのも…、とハーレイが顎に手を当てる。長老の四人とキャプテンの他には、借金を頼めそうにもないのがジョミー。
 なんと言っても、船に来てから、まだ日が浅い。若いミュウからは総スカンのまま、古参の者たちも相手にしてはくれない。「ソルジャーを半殺しの目に遭わせた」ジョミーなんかは。
『君たち五人と、ぼくくらいしかいないだろう。…ならば、どうなる…?』
 そういう面子に借金するなら、悪い成績では頼めはしない、とブルーは笑った。全財産をすった後には、ガチャをやるために「成績アップ」で、集中力を上げるしかない、と。
「…仰る通りかもしれません。では、急いでゲームを開発させます」
『頼んだよ、ハーレイ。…ジョミーの育成は早いほどいい』
 使えるものなら、ガチャでもいい、とブルーの思念は「ガチャ」をプッシュで、ソルジャー直々の命令とあって、凄い速さで「ジョミー好みの」ゲームが船で開発されて…。


「えっ、ゲーム機!? ホントにいいの!?」
 これで遊んでかまわないわけ、と感激のジョミーに、ハーレイが重々しく告げた。
「ソルジャー・ブルーの御命令だ。君にも娯楽は必要だろう。そして、これがだ…」
 近日、リリース予定のゲームで、君も気に入ると思うのだが…、とハーレイが勧めた「ジョミーを夢中にさせるための」ゲーム。只今、事前登録受け付け中で、登録すればガチャが一回分のアイテムが入手できるとあって…。
「ありがとう、キャプテン! 早速、これから始めてみるよ!」
 面白そうなゲームだから、と説明に見入るジョミーは「知らない」。それがジョミーを「陥れる」ために開発されたゲームだなんて。
 プレイ時間の捻出のために頑張りまくって、ガチャを引くための借金目当てに、好成績を上げてゆくよう、計算されているなんて。
 かくして数日後に、ゲームは船でリリースされた。船の仲間も夢中だけれども、ターゲットになったジョミーにとっては、ストライク直球ド真ん中で「燃える」素敵なゲームなだけに…。
「おおっ、満点じゃ! 今日の訓練は上がっていいぞ」
「分かってる! 講義までの間に、ちょっとだけ…」
 今はガチャが当たる確率、高い筈だよ、と引きまくるジョミーは、直ぐに借金まみれになった。ゼルにヒルマン、ブラウにエラにと借金しまくり、ついには青の間に走って行って…。
「ブルー! ソルジャー・ブルー!!」
 次の訓練では、満点を三連発で出しますから…、と土下座で申し込む借金。「ガチャのお金を貸して下さい」と、カエルみたいに平伏して。
「…いいだろう。もしも、満点を五連発で出せた場合は、貸すのではなくて…」
 ガチャを十回分の資金をプレゼントだ、とブルーに言われて、ジョミーは歓声を上げて走り去って行った。「頑張ります!」と、熱意溢れる表情で。
(…満点を五連発で出したら、ガチャ十回分、プレゼントだよ…!)
 頑張るぞ、と駆けてゆくジョミーは、まだ知らない。
 立派な「ソルジャー候補」になるよう、ゲームとガチャに「釣られて」踊らされていることを。ガチャの確率から何から何まで、計算ずくだということを。
 けれども船では結果が全てで、ジョミーも「楽しんでいる」のだからいい。
 ゲームで遊んで、ガチャに燃えたら、集中力がアップだから。立派なソルジャー候補への道、それを真っ直ぐ走ってゆくのがジョミーだから…。

 

           楽しみなガチャ・了

※ナスカの子たちがゲーム機で遊んでいたっけな、と。アニテラ放映時には無かったガチャ。
 今ではすっかり「常識」なわけで、ジョミーに課金させてみました。ブルー、策士だ…。







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