遺された本
(……シロエ……)
どんな思いで持って行ったのだ、とキースは本のページを捲る。
首都惑星ノアの夜は更け、周りには誰もいなかった。
ジルベスター・セブンを殲滅した後、二階級特進の栄誉に与り、住まいも変わった。
上級大佐に相応しいもので、側近に据えたマツカのための部屋もある。
家具の類も好きに選べて、居心地の良い場所になったけれども…。
(…皮肉なことだな…)
まさか自分が無から作られた者だったとは、と虚しい気持ちがしないでもない。
どれほど立派な部屋に住もうと、「キース・アニアン」は其処には「似合わない」者。
ヒトの姿でヒトと同じに、否、ヒト以上に、感情も充分、持ち合わせている筈だけれども…。
(…私は所詮、作られた者で…)
人間のように暮らせる資格を持たない者だ、という気がする。
実験室のケースや檻が似合いで、其処から出て来て任務をこなして、また戻ってゆく。
そういう日々こそ「相応しい」モノ、快適な部屋など「要らない」生き物。
ある意味、ミュウにも劣るのでは、と思えるほどに。
(……もっとも、私自身にさえも……)
その真実は、まるで知らされていなかった。
シロエは事実を知ったけれども、その罰を受けて死んだと言っていいだろう。
「フロア001」という言葉だけを告げて、シロエは逝った。
Eー1077から非武装の船で逃げ出し、追って来たキースに撃墜されて。
彼が死んだ後、キースはフロア001を目指した。
なのに、何故だか邪魔が入って、結局、辿り着けないままで卒業して…。
(順調な日々を送っていたのに、今頃になって…)
シロエが記録していた映像、それがキースの手許に届いた。
遠い昔に、シロエが大切に持っていた本に隠されて。
ピーターパンの本の裏表紙、その「見返し」の紙の下にシロエは「それ」を仕込んだ。
「セキ・レイ・シロエ」と自分の名前が書いてある箇所、其処を剥がして、元に戻して。
(…こんな所に隠しておいても…)
何の役にも立たないだろう、とキースは心の中でシロエに問い掛ける。
「お前だけの秘密になってしまって、私には届かないだろうが」と、「違うのか?」と。
実際、シロエは「その本と一緒に」キースの部屋まで来たのだけれども、その時も…。
(フロア001、と言っていたくせに、この本のことは…)
何も語らず、大切に胸に抱き締めていた。
失っていた意識を取り戻した後、一番に本の在り処を探して、見付け出して。
「その本」に自分が隠したモノのことなど、きっと忘れていたのだろう。
覚えていたなら、あの時、キースに「これだ」と渡して、見るように仕向けただろうから。
けれど、シロエは「そうしなかった」。
代わりに大切な本と一緒に、練習艇で宇宙へ飛び去って行った。
逃亡した者を待っているのは、撃墜されるか、連れ戻されるかの二つしか無い。
シロエには「戻る」気などは無かったろうから、死ぬしかないと知っていて逃げた。
追って来る者が誰であろうと、船ごと砕かれ、爆死する最期を承知の上で。
(…撃墜されたら、こんな紙の本が…)
無事に残るわけがないではないか、と誰が考えても答えは出て来る。
本も、映像を記録したチップも、微塵に砕けて残りはしない。
もちろんシロエも、「冷静だったら」、そのくらいのことは分かったろう。
どれほど大事にしていた本でも、一緒には持って行かないで…。
(何らかの形で、私の所へ届くようにと…)
仕掛けをしてから、一人で飛び立って行ったと思う。
ピーターパンの本に「さようなら」と別れを告げて、涙を堪えて、ただ一人きりで。
「頼んだよ」と、「キースに必ず、これを届けて」と、フロア001の映像を託して。
(…それなのに、何故…)
そうしないで持って行ったのだ、とキースはページをパラパラと捲る。
もっとも、そうして眺めてみても、シロエの声は聞こえて来ない。
シロエ自身の書き込みも無くて、あるのは「本の中身」だけ。
幼い子供でも簡単に読める、ピーターパンの物語。
(…シロエは、きっと幼い頃から…)
この本を読んでいたのだろうな、と表紙が焼け焦げた本を捲ってゆく。
スウェナから「これ」を受け取った時は、心の底から驚かされた。
「何故、この本が」と、「あの爆発の中で、どうやって?」と。
スウェナは「あなた宛のメッセージが発見されたわ」と、この本を寄越したのだけれども…。
(…ああ言ったのは、私の関心を引くためだけで…)
本当に「メッセージがあった」ことなど、スウェナは全く知らないだろう。
知っていたなら、抜け目なくチップを回収した後、本だけを渡して来ただろうから。
(なにしろ、ジャーナリストだからな…)
その上、とんでもないメッセージだったのだし、と「知られなかった」ことに感謝する。
もしもスウェナが気付いていたら、彼女の命は無かっただろう。
「何処にでもある」マザー・システム、それは「其処まで甘くはない」。
ただの火遊びなら見逃していても、「機密事項を知ったスウェナ」を生かしておくなど…。
(絶対に無いし、そうなっていたら、私は、また…)
友を失っていただろうな、と背筋が冷えた。
サムに続いて、スウェナまでをも失くす所だった、と。
シロエが「巧みに」隠さなかったら、あるいはスウェナが詳細に本を調べていたら。
幸いなことに、最悪の事態は免れた。
シロエが「命懸けで暴いた」キースの秘密は、無事にキースの許に届いて…。
(私を愕然とさせてくれたが、シロエ、お前は…)
犬死にになる所だったのだぞ、と時の彼方で散ったシロエに呼び掛ける。
「分かっているのか?」と、「何故、この本を持って行ったのだ」と。
とはいえ、答えは返って来なくて、シロエが「この本を持って行った」理由は、きっと…。
(…大切な本と、幼い頃の記憶の欠片を大事に抱えて…)
宇宙へ飛び出して行ったというだけ、行きたかった場所を目指した結果だったろう。
其処が何処かは、ピーターパンの本が教えてくれる。
「ネバーランドを目指したのだ」と、焼け焦げた本の中身がキースに語り掛けて来る。
(…二つ目の角を右に曲がって、後は朝まで、ずっと真っ直ぐ…)
本の中には、そう書かれていた。
そうやって真っ直ぐ進んで行ったら、ネバーランドに行けるのだ、と。
其処は子供のためにある場所、如何にもシロエが「行きたい」と願いそうな場所。
あれほどシステムを憎んでいたなら、ネバーランドは、まさしく夢を叶えるための…。
(理想の国で、其処へ行こうと…)
それだけを思っていたのだろうな、とシロエの心が見えてくるよう。
「キースの秘密」など、もはや「あの時のシロエ」にとっては「些細なこと」。
現実にはもう目を向けもしないで、ただ夢だけを追って、目指して、シロエは散った。
宇宙へ飛び出し、ネバーランドを追い掛けた末に。
ありもしない「朝」へ、「二つ目の角」へと向かって飛んで飛び続けて、撃墜されて。
(…それが真相だったのだろうな…)
シロエは「どうでも良かった」のだ、と砕け散った船を思い出す。
キースの秘密を暴くことより、自分の夢と想いの方が、シロエにとっては重要だった。
何にも代え難い宝物の本と、懐かしい故郷と両親の思い出。
どれ一つとして欠けてはならず、それらを大切に抱き締めたままでシロエは「飛んだ」。
真っ直ぐに、ネバーランドへと。
シロエの夢が叶う国へと、「キースの秘密」などはもう、忘れ去って。
(…それなのに、何がどうなったのか…)
ピーターパンの本は、「消えずに」残った。
恐らく、シロエのサイオンが守ったのだろう。
爆発の中でも微塵に砕けてしまわないよう、シールドを張って。
「何よりも大事な宝物」だから、シロエ自らの肉体よりも「優先して」。
(…もっとサイオンの扱いに長けていたなら、シロエ自身も…)
シールドの中で生きていたのだろうな、と思うけれども、そうはならずにシロエは逝った。
生きていたなら、モビー・ディックに発見される道もあったのに。
「近くまで来ていた」と聞かされたから、「そうなってくれていたならば」と思うのに。
(…残ったものは、この本だけか…)
ならば、返してやらなければな、と焼け焦げた本の表紙を撫でた。
「この本をシロエに返してやろう」と、「シロエが持っているべきだ」と。
有難いことに、そのための好機がやって来る。
今日、グランド・マザーから「Eー1077を処分して来なさい」との命令を受けた。
「キースが出生の秘密を知った」と気付いたからか、あるいは予定の行動なのか。
(…なんとも分かりかねるのだがな…)
シロエが記録していた映像、それは本来、「此処に残っている筈がない」。
ピーターパンの本と一緒に宇宙に飛び散り、キースの手許に届きはしない。
(私が映像を目にしたことは、知っているかもしれないが…)
それが無くても「時期が来た」というだけなのかもな、と自嘲の笑みが唇に浮かぶ。
「どうせ行ったら分かることだ」と、「フロア001も見られるだろう」と。
グランド・マザーは「時が来るまで」、秘密にしておく気でいたかもしれない。
「真実を早く知りすぎた」キースが自滅しないよう、「この歳になるまで」。
(だとしたらシロエは、私を壊せる切り札を手にしていたというのに…)
私に渡すこともしないで、大切に持って行ったのか、と少し可笑しい。
「シロエ、お前は失敗したぞ」と、「持って行かずに、渡すべきだったな」と。
そうしていたなら「キース」は絶望の淵に叩き落とされ、自殺していたか、狂っていたか…。
(いずれにせよ、無事には済んでいなくて、此処に生きてもいないだろうが…)
何事もなく生き延びた上に、シロエが「一緒に行きたかった本」まで残ってしまった。
色々と勘定が狂ったけれども、その帳尻を合わせるためにも、シロエに本を返してやろう。
Eー1077を処分しに出掛ける時には、この本も必ず持ってゆく。
そして廃校になって、廃墟と化しただろうステーションの中で…。
(…あの頃のシロエの部屋を探して、其処の机に…)
ピーターパンの本を置いてから、Eー1077を惑星に落とし、木っ端微塵に破壊する。
それが一番いいと思うし、本はシロエが持っているべき。
自分自身の肉体よりも、本を守って逝ったくらいに、大切にしていた宝物なのだから…。
遺された本・了
※アニテラのキースは、シロエが撮影した映像で「自分の生まれ」を知ったのですが。
肝心の秘密を仕込んだ本ごとシロエは逃げて、撃墜されて終わり。変だよね、というお話。
どんな思いで持って行ったのだ、とキースは本のページを捲る。
首都惑星ノアの夜は更け、周りには誰もいなかった。
ジルベスター・セブンを殲滅した後、二階級特進の栄誉に与り、住まいも変わった。
上級大佐に相応しいもので、側近に据えたマツカのための部屋もある。
家具の類も好きに選べて、居心地の良い場所になったけれども…。
(…皮肉なことだな…)
まさか自分が無から作られた者だったとは、と虚しい気持ちがしないでもない。
どれほど立派な部屋に住もうと、「キース・アニアン」は其処には「似合わない」者。
ヒトの姿でヒトと同じに、否、ヒト以上に、感情も充分、持ち合わせている筈だけれども…。
(…私は所詮、作られた者で…)
人間のように暮らせる資格を持たない者だ、という気がする。
実験室のケースや檻が似合いで、其処から出て来て任務をこなして、また戻ってゆく。
そういう日々こそ「相応しい」モノ、快適な部屋など「要らない」生き物。
ある意味、ミュウにも劣るのでは、と思えるほどに。
(……もっとも、私自身にさえも……)
その真実は、まるで知らされていなかった。
シロエは事実を知ったけれども、その罰を受けて死んだと言っていいだろう。
「フロア001」という言葉だけを告げて、シロエは逝った。
Eー1077から非武装の船で逃げ出し、追って来たキースに撃墜されて。
彼が死んだ後、キースはフロア001を目指した。
なのに、何故だか邪魔が入って、結局、辿り着けないままで卒業して…。
(順調な日々を送っていたのに、今頃になって…)
シロエが記録していた映像、それがキースの手許に届いた。
遠い昔に、シロエが大切に持っていた本に隠されて。
ピーターパンの本の裏表紙、その「見返し」の紙の下にシロエは「それ」を仕込んだ。
「セキ・レイ・シロエ」と自分の名前が書いてある箇所、其処を剥がして、元に戻して。
(…こんな所に隠しておいても…)
何の役にも立たないだろう、とキースは心の中でシロエに問い掛ける。
「お前だけの秘密になってしまって、私には届かないだろうが」と、「違うのか?」と。
実際、シロエは「その本と一緒に」キースの部屋まで来たのだけれども、その時も…。
(フロア001、と言っていたくせに、この本のことは…)
何も語らず、大切に胸に抱き締めていた。
失っていた意識を取り戻した後、一番に本の在り処を探して、見付け出して。
「その本」に自分が隠したモノのことなど、きっと忘れていたのだろう。
覚えていたなら、あの時、キースに「これだ」と渡して、見るように仕向けただろうから。
けれど、シロエは「そうしなかった」。
代わりに大切な本と一緒に、練習艇で宇宙へ飛び去って行った。
逃亡した者を待っているのは、撃墜されるか、連れ戻されるかの二つしか無い。
シロエには「戻る」気などは無かったろうから、死ぬしかないと知っていて逃げた。
追って来る者が誰であろうと、船ごと砕かれ、爆死する最期を承知の上で。
(…撃墜されたら、こんな紙の本が…)
無事に残るわけがないではないか、と誰が考えても答えは出て来る。
本も、映像を記録したチップも、微塵に砕けて残りはしない。
もちろんシロエも、「冷静だったら」、そのくらいのことは分かったろう。
どれほど大事にしていた本でも、一緒には持って行かないで…。
(何らかの形で、私の所へ届くようにと…)
仕掛けをしてから、一人で飛び立って行ったと思う。
ピーターパンの本に「さようなら」と別れを告げて、涙を堪えて、ただ一人きりで。
「頼んだよ」と、「キースに必ず、これを届けて」と、フロア001の映像を託して。
(…それなのに、何故…)
そうしないで持って行ったのだ、とキースはページをパラパラと捲る。
もっとも、そうして眺めてみても、シロエの声は聞こえて来ない。
シロエ自身の書き込みも無くて、あるのは「本の中身」だけ。
幼い子供でも簡単に読める、ピーターパンの物語。
(…シロエは、きっと幼い頃から…)
この本を読んでいたのだろうな、と表紙が焼け焦げた本を捲ってゆく。
スウェナから「これ」を受け取った時は、心の底から驚かされた。
「何故、この本が」と、「あの爆発の中で、どうやって?」と。
スウェナは「あなた宛のメッセージが発見されたわ」と、この本を寄越したのだけれども…。
(…ああ言ったのは、私の関心を引くためだけで…)
本当に「メッセージがあった」ことなど、スウェナは全く知らないだろう。
知っていたなら、抜け目なくチップを回収した後、本だけを渡して来ただろうから。
(なにしろ、ジャーナリストだからな…)
その上、とんでもないメッセージだったのだし、と「知られなかった」ことに感謝する。
もしもスウェナが気付いていたら、彼女の命は無かっただろう。
「何処にでもある」マザー・システム、それは「其処まで甘くはない」。
ただの火遊びなら見逃していても、「機密事項を知ったスウェナ」を生かしておくなど…。
(絶対に無いし、そうなっていたら、私は、また…)
友を失っていただろうな、と背筋が冷えた。
サムに続いて、スウェナまでをも失くす所だった、と。
シロエが「巧みに」隠さなかったら、あるいはスウェナが詳細に本を調べていたら。
幸いなことに、最悪の事態は免れた。
シロエが「命懸けで暴いた」キースの秘密は、無事にキースの許に届いて…。
(私を愕然とさせてくれたが、シロエ、お前は…)
犬死にになる所だったのだぞ、と時の彼方で散ったシロエに呼び掛ける。
「分かっているのか?」と、「何故、この本を持って行ったのだ」と。
とはいえ、答えは返って来なくて、シロエが「この本を持って行った」理由は、きっと…。
(…大切な本と、幼い頃の記憶の欠片を大事に抱えて…)
宇宙へ飛び出して行ったというだけ、行きたかった場所を目指した結果だったろう。
其処が何処かは、ピーターパンの本が教えてくれる。
「ネバーランドを目指したのだ」と、焼け焦げた本の中身がキースに語り掛けて来る。
(…二つ目の角を右に曲がって、後は朝まで、ずっと真っ直ぐ…)
本の中には、そう書かれていた。
そうやって真っ直ぐ進んで行ったら、ネバーランドに行けるのだ、と。
其処は子供のためにある場所、如何にもシロエが「行きたい」と願いそうな場所。
あれほどシステムを憎んでいたなら、ネバーランドは、まさしく夢を叶えるための…。
(理想の国で、其処へ行こうと…)
それだけを思っていたのだろうな、とシロエの心が見えてくるよう。
「キースの秘密」など、もはや「あの時のシロエ」にとっては「些細なこと」。
現実にはもう目を向けもしないで、ただ夢だけを追って、目指して、シロエは散った。
宇宙へ飛び出し、ネバーランドを追い掛けた末に。
ありもしない「朝」へ、「二つ目の角」へと向かって飛んで飛び続けて、撃墜されて。
(…それが真相だったのだろうな…)
シロエは「どうでも良かった」のだ、と砕け散った船を思い出す。
キースの秘密を暴くことより、自分の夢と想いの方が、シロエにとっては重要だった。
何にも代え難い宝物の本と、懐かしい故郷と両親の思い出。
どれ一つとして欠けてはならず、それらを大切に抱き締めたままでシロエは「飛んだ」。
真っ直ぐに、ネバーランドへと。
シロエの夢が叶う国へと、「キースの秘密」などはもう、忘れ去って。
(…それなのに、何がどうなったのか…)
ピーターパンの本は、「消えずに」残った。
恐らく、シロエのサイオンが守ったのだろう。
爆発の中でも微塵に砕けてしまわないよう、シールドを張って。
「何よりも大事な宝物」だから、シロエ自らの肉体よりも「優先して」。
(…もっとサイオンの扱いに長けていたなら、シロエ自身も…)
シールドの中で生きていたのだろうな、と思うけれども、そうはならずにシロエは逝った。
生きていたなら、モビー・ディックに発見される道もあったのに。
「近くまで来ていた」と聞かされたから、「そうなってくれていたならば」と思うのに。
(…残ったものは、この本だけか…)
ならば、返してやらなければな、と焼け焦げた本の表紙を撫でた。
「この本をシロエに返してやろう」と、「シロエが持っているべきだ」と。
有難いことに、そのための好機がやって来る。
今日、グランド・マザーから「Eー1077を処分して来なさい」との命令を受けた。
「キースが出生の秘密を知った」と気付いたからか、あるいは予定の行動なのか。
(…なんとも分かりかねるのだがな…)
シロエが記録していた映像、それは本来、「此処に残っている筈がない」。
ピーターパンの本と一緒に宇宙に飛び散り、キースの手許に届きはしない。
(私が映像を目にしたことは、知っているかもしれないが…)
それが無くても「時期が来た」というだけなのかもな、と自嘲の笑みが唇に浮かぶ。
「どうせ行ったら分かることだ」と、「フロア001も見られるだろう」と。
グランド・マザーは「時が来るまで」、秘密にしておく気でいたかもしれない。
「真実を早く知りすぎた」キースが自滅しないよう、「この歳になるまで」。
(だとしたらシロエは、私を壊せる切り札を手にしていたというのに…)
私に渡すこともしないで、大切に持って行ったのか、と少し可笑しい。
「シロエ、お前は失敗したぞ」と、「持って行かずに、渡すべきだったな」と。
そうしていたなら「キース」は絶望の淵に叩き落とされ、自殺していたか、狂っていたか…。
(いずれにせよ、無事には済んでいなくて、此処に生きてもいないだろうが…)
何事もなく生き延びた上に、シロエが「一緒に行きたかった本」まで残ってしまった。
色々と勘定が狂ったけれども、その帳尻を合わせるためにも、シロエに本を返してやろう。
Eー1077を処分しに出掛ける時には、この本も必ず持ってゆく。
そして廃校になって、廃墟と化しただろうステーションの中で…。
(…あの頃のシロエの部屋を探して、其処の机に…)
ピーターパンの本を置いてから、Eー1077を惑星に落とし、木っ端微塵に破壊する。
それが一番いいと思うし、本はシロエが持っているべき。
自分自身の肉体よりも、本を守って逝ったくらいに、大切にしていた宝物なのだから…。
遺された本・了
※アニテラのキースは、シロエが撮影した映像で「自分の生まれ」を知ったのですが。
肝心の秘密を仕込んだ本ごとシロエは逃げて、撃墜されて終わり。変だよね、というお話。
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