青の間の夜
今日も静かな夜になったね、青の間には、ぼく一人しかいない。
昼の間は、多い時だと、次々に人が来るのだけれど…。
閉める時間の少し前には、誰もいなくなって、静けさだけだ。
それから後は、何時頃かな、巡回の人が来るのが何回か。
ベッドの周りを一回りしたら、直ぐに帰ってしまうけれどね。
ぼくが、この部屋で生きた時代は、時の彼方だ。
もうトォニィの代も終わって、次のソルジャーは不在だったよ。
ミュウと人類は和解した上、ごくごく自然に融合を遂げて、区別自体が消え去った。
そんな時代に、もうソルジャーは必要ではない。
トォニィが引退を宣言した後、ソルジャーは選ばれることが無かった。
誰も「選ぼう」とさえも言わなかったし、それで時代が一つ終わりを迎えたわけだ。
そうなるよりも、ずっと前から、シャングリラという箱舟は役目を終えて、此処にあったよ。
地球の復興には長い時間がかかるだろうから、首都惑星のノアに据えられた。
誰でも見られる船になるよう、見学用の通路なんかを整備した上でね。
その船の中の住人と言えば、ぼく一人だけ。
仲間たちは皆、平和になった宇宙に散らばって行って、船に残る者はいなかった。
船を維持するためのスタッフになった、一部のクルーがいただけだよ。
もっとも、彼らも家は別の所に持っていたから、昼の間しか来なかったね。
広いシャングリラに、今は、ぼくしかいなくなった。
この青の間から外へ出てみても、昼間以外は、夜勤のスタッフくらいだ。
見学者で賑わう昼の間も、どうやら此処は「特別」らしい。
「ソルジャー・ブルー」が生きた時代を再現しようと、案内板さえ置かれてはいない。
ついでに言うなら、入場制限もしているようだね。
人が多いと、雰囲気が壊れてしまうそうだよ。
ぼくは賑やかでも構わないのに、誰が決まりを作ったんだろう。
「変えて欲しい」と言いに行こうにも、今のぼくには出来ないだけに、仕方ないんだが…。
でもね、たまに不思議な「お客様」が来るんだ。
見学の人の中には、幼い子供を連れている人も少なくはない。
そうして此処に入った子供が、ぼくに向かって笑い掛けるんだよ。
手を振ってくれる子も、何人も見たね。
ぼくが思うに、「あの子たち」の目には、「ぼく」が映っているんだろう。
いつも思念を送るけれども、答えが返って来ないものだから、これは推測なんだが…。
どうやら「子供たち」と「ぼく」の間には、見えない壁があるらしい。
とうに死んでいる「ぼく」の世界に引き込まないよう、神様が作った壁なのかな。
ぼくは、ずっと前から、この青の間で暮らしている。
メギドで命を終えて以来で、ジョミーも、トォニィも、此処に来ていた。
けれど「ぼく」には気付かないまま、二人とも、去って行ってしまって、それっきりだ。
自分の役目を果たした後には、きっと未練が無かったんだろう。
ぼくも、そろそろ、この船を離れた方がいいんだろうね。
地球は順調に青くなりつつあるから、それを「地球の上で」見届けるために。
近い未来に、子供でなくても「ぼくの姿が見える」見学者たちが増えて来るだろう。
彼らはまさに「進化したミュウ」で、青い姿に戻った地球の未来を担ってゆける。
その日が来るのは、そう遠くない。
「青の間には、今も幽霊が出る」と、妙な噂が立ち始める前に、ぼくは此処から旅立とう。
「ソルジャー・ブルーの幽霊つきのシャングリラ」が誕生しない間に、地球を目指して。
青の間を離れて、広い宇宙を真っ直ぐに翔けて。
そうして、地球が青い姿に戻るのを見届けた後は、どうしようかな…。
まだ考えてはいないけれども、幸せだろうね。
肉眼では、ついに見られなかった、青い水の星を見られるのだから。
その青い地球を担ってゆける者たち、「進化したミュウ」も、近い内に、きっと生まれて来る。
彼らが未来を築いてゆく日も、希望に満ちた地球の未来も、じきに来るから…。
青の間の夜・了
※アニテラ放映当時から、18年になります。もう追悼でもないでしょうけど、つい…。
青の間にいるブルー、地縛霊などではありません。座敷童のような守り神です。
PR
COMMENT