決められた好み
(やはり、マツカが淹れるコーヒーは美味いな)
私にはこれが一番合う、とキースはコーヒーのカップを傾けた。
一日の終わりに、自室でゆったりと味わう一杯、それが習慣になって久しい。
いつからそうして過ごしているのか、自分でも思い出せないほどに。
(マツカを側近に据える前には、これといって決まった部下もいなくて…)
コーヒーを運んで来る者はいても、誰だったのかは覚えていない。
ついでに「美味い」と思っていたか否かも、今となっては謎と言ってもいいだろう。
(私は昔からコーヒーが好きで、何か選んで飲むのなら…)
コーヒーだったというだけのことで、それ以上でも以下でも無かった。
ミュウの「マツカ」を側近にして、飲み物を彼に任せるようになるまでは。
(…そうには違いないのだが…)
マツカが淹れるコーヒーが「最初から」美味だったのかは、記憶に無い。
ソレイドで初めて出会った時に、マツカが淹れて来たコーヒーは…。
(ひと騒動あった後に、詫びながら持って来たからな…)
心がそちらに向いていたせいで、コーヒーは、ただ「飲んだ」というだけ。
喉の渇きを癒して終わりで、そういう時には何を飲もうと、誰でも満足するだろう。
一息ついて、ホッと身体と心を緩めて、ソファなどに深く腰掛けて。
「これでゴタゴタは一段落だ」と、次にすべきことを考えながら。
(あの時のコーヒーが、とびきり美味かったとしても…)
多分、そうだと気付きはしないし、たとえ美味くても、それで側近に選びはしない。
いくらコーヒー党だと言っても、人選を左右するほどではない。
(だが、実際には、実に美味くて…)
今では他の者が淹れても、「これは違う」と苛立ってしまう時もある。
「同じコーヒーで、こうも違うか」と、「どうして上手く淹れられないのだ」と、心の中で。
(流石に、口には出さないのだが…)
部下たちも気配で察しているのか、マツカには不名誉な渾名があった。
「コーヒーを淹れることしか出来ない、能無し野郎」と、あからさまに陰口を叩かれている。
(本当の所は、誰よりも役に立つのだが…)
明かすわけにはいかないからな、と放っているから、マツカは「コーヒー係」でしかない。
もっとも、マツカの階級からしても、それ以上の仕事は出来ないけれど。
マツカを側近に据えた時には、キースは既に「上級大佐」に昇進していた。
その後、国家騎士団元帥を経て、今は元老の地位にいる。
最高機関のパルテノン、即ち元老院が職場なのだし、マツカに務まる役職など無い。
もう本当に「コーヒー係」で、今日も何杯か淹れていたけれど…。
(…此処へ来てから、つくづく思うことだが…)
人間の好みというのは色々あるな、と呆れながらも感心させられる。
軍人だった頃は、何処へ行っても、コーヒーが出るのが常だった。
たまに「何を飲みますか」と訊かれはしても、選択肢はコーヒーと紅茶くらいで。
ところが、パルテノンでは違う。
実に様々な飲み物があって、元老たちは休憩時間に自室で飲んでいるようだ。
だから彼らを訪ねて行ったら、当然、それを飲むことになる。
紅茶は理解の範疇だけども、ハーブティーやら、冷えたレモネードやらは口に合わない。
それでも「飲むしかない」けれど。
相手が「どうぞ」と勧めるからには、「頂きます」と飲むのが礼儀で、断れはしない。
(同じコーヒーでも、とんでもないのが出るからな…)
これは本当にコーヒーなのか、と目を剥いてしまった経験もあった。
ホイップクリームがたっぷり入った、とんでもなく甘い「ケーキのような」コーヒー。
(おまけに、次に訪ねて行ったら…)
覚悟して飲んだ「ホイップクリーム入り」の中に、別の味わいが隠されていた。
オレンジか何かの柑橘類で、クリームの上には、色とりどりのトッピングまで。
(なんと言ったか、遥か昔の女帝の名前で…)
御自慢のコーヒーだったらしいけれども、キースにとっては「コーヒー」の味ではなかった。
甘くて怪しい菓子でしかなくて、あの時は自室に戻るなり…。
(コーヒーを、と…)
マツカに命じて口直しをして、ようやく人心地ついたほど。
何故、同じコーヒーがああも変わるか、それを好んで飲む者がいるのか理解出来ない。
とはいえ、個性も好みも「人の数だけ」あるものだから、その点は仕方ないだろう。
ただ、パルテノンに来てから、その実感を深くした。
軍人出身の元老は「キース」だけだし、そのせいもあるのかもしれない。
他のコースで育った者だと、コーヒーと紅茶の他にも多様な選択肢があって…。
(あれこれ選んで飲んでいる内に、ああいった風に…)
独自の道を突っ走るようになるのかもな、と可笑しくなった。
軍人ばかりの世界だったら、飲み物といえども質実剛健、コーヒーか紅茶かくらいなのに。
そうした環境で生きて来たせいで、今も昔も「コーヒー党」だと自認している。
中でもマツカが淹れるコーヒーが一番、部下たちがつけた不名誉な渾名は伊達ではない。
(そういう意味でも、いい部下を持ったな)
この一杯が美味いんだ、と絶妙な苦味を味わう間に、ハタと気付いた。
「どうして、コーヒー党なのだ?」と。
いつから「キース」はコーヒー党で、コーヒーを好んで飲んでいるのか。
(……ステーションでは……)
一切、指導されてはいないし、強制されたわけでもない。
食堂に行けば「選べた」わけで、そういえば、今でも忘れられない「シロエ」は…。
(シナモンミルクに、マヌカ多め…)
そのように注文している所を、何度か見掛けた。
あれが「シロエ」の好みだったわけで、彼が生きて出世していたら…。
(普段は周囲の者に合わせて、コーヒーか紅茶だったとしても…)
パルテノン入りを果たした後まで、大人しく「そのまま」でいたとは、とても思えない。
ここぞとばかりに自分の好みで、自室では常にシナモンミルクで、客人にまでも…。
(如何ですか、と出しかねないぞ)
ケーキのようなコーヒーが出て来る世界だからな、と肩を竦めた。
あれに比べれば、シナモンミルクはマシな方だと言えるだろう。
シロエは「それ」を好んだわけで、そうなると「軍人だから」といって…。
(必ずしもコーヒー党ではなくて、他にも色々…)
好みがあって、普段はプライベートな空間だけで「それ」を楽しんでいるかもしれない。
ソレイドで会ったグレイブにしても、セルジュやパスカルといった部下たちにしても。
(…では、私は…?)
どうしてコーヒー党なのだ、と「Eー1077から後」だけしかない記憶を手繰る。
誰にコーヒーを勧められて飲んで、いつからコーヒーが気に入りなのか、と。
けれど、全く「思い出せない」。
むしろ恐ろしい、「一番最初に」飲んだコーヒー。
あのステーションで出会ったサムと、初対面の日に、二人で食堂に出掛けて行って…。
(コーヒーを、と…)
迷うことなく注文をして、しかも「ホット」で「ブラック」と言った。
「水槽から出て来たばかりのキース」は、コーヒーを飲んだことが無いのに。
ホットとアイスで違う味わい、砂糖を入れるか、入れていないかの違いも、一度も…。
(自分の舌では、まるで全く…)
知らなかった、と断言出来る。
水槽の中で育ったからには、コーヒーも紅茶も、ミルクも口にはしていないから。
(…だったら、あれは…)
マザー・イライザが教えた知識か、と愕然とした。
「何か飲むのなら、コーヒーがいい」と思ったことも、ホットでブラックが好みなのも。
それ以外には「考えられない」し、他の可能性は一つも無い。
(…そうだとすると、私の思考は、飲み物の好みに至るまで…)
機械が仕組んで組み立てたもので、それを「知らずに」実行しているだけかもしれない。
自分では「自分の意思」のつもりで、日々を、人生を生きているのだけれど…。
(…サムもスウェナも、シロエも、マザー・イライザに選び出されて、私の前に…)
現れたのだし、サムを「好ましく思って」親しくしたのも、機械が仕向けた行動だろうか。
シロエとは衝突を繰り返した末に、この手で殺す結果になったけれども…。
(…あれも機械の計算の内で、私がそれに従った以上は…)
今も「シロエ」を忘れられないのも、シロエの面影が重なった「マツカ」を助けたことも…。
(何もかも、機械の手のひらの上で…)
起きていることで、「キース」は「踊らされている」のだろうか。
機械は全てを承知していて、「マツカ」が「ミュウである」ことも把握していて…。
(キースの役に立っているから、と…)
見逃している可能性もある。
それだけで済めばいいのだけれども、あるいは「マツカ」との出会い自体が…。
(機械に仕組まれたことだった……のか…?)
まさか、と即座に否定しかけて、「そうかもしれない」と背筋が冷えた。
マツカは「成人検査をパスした」ミュウで、それは偶然ではないかもしれない。
かつて「シロエ」がそうだったように、マツカも機械に選び出されて、検査をパスして…。
(ソレイドで私と遭遇するよう、仕組まれて…)
出会った私を殺そうとしたのも、そんなマツカを助命したのも…、と指先が震える。
「何もかも機械の計算なのか」と、「私は機械に操られているだけなのか?」と。
そうだとしたなら、この人生は「キース」のものではない。
シロエが嘲笑った通りに「操り人形」、自由になれる時があるとしたなら…。
(…ミュウどもが来て、グランド・マザーと、マザー・システムを…)
破壊した後しか有り得ない。
もっとも、その時、「キース」が生きているかどうかは、読めないけれども…。
(…早く来い、ジョミー・マーキス・シン…!)
私の意思が本当に私のものか知りたいからな、と心から思う。
たとえ破滅が待っていようと、行きつく先が惨い死に様であろうとも。
その時が来れば「分かる」から。
機械の手のひらの上で生きていたのか、自分の意思で生きて歩いた人生なのかが…。
決められた好み・了
※キースはどうしてコーヒー党なんだ、と思った所から出来たお話。水槽育ちの筈なのに。
ホットとブラックは、原作から。作中の怪しげなのは「マリア・テレジア」、実在します。
私にはこれが一番合う、とキースはコーヒーのカップを傾けた。
一日の終わりに、自室でゆったりと味わう一杯、それが習慣になって久しい。
いつからそうして過ごしているのか、自分でも思い出せないほどに。
(マツカを側近に据える前には、これといって決まった部下もいなくて…)
コーヒーを運んで来る者はいても、誰だったのかは覚えていない。
ついでに「美味い」と思っていたか否かも、今となっては謎と言ってもいいだろう。
(私は昔からコーヒーが好きで、何か選んで飲むのなら…)
コーヒーだったというだけのことで、それ以上でも以下でも無かった。
ミュウの「マツカ」を側近にして、飲み物を彼に任せるようになるまでは。
(…そうには違いないのだが…)
マツカが淹れるコーヒーが「最初から」美味だったのかは、記憶に無い。
ソレイドで初めて出会った時に、マツカが淹れて来たコーヒーは…。
(ひと騒動あった後に、詫びながら持って来たからな…)
心がそちらに向いていたせいで、コーヒーは、ただ「飲んだ」というだけ。
喉の渇きを癒して終わりで、そういう時には何を飲もうと、誰でも満足するだろう。
一息ついて、ホッと身体と心を緩めて、ソファなどに深く腰掛けて。
「これでゴタゴタは一段落だ」と、次にすべきことを考えながら。
(あの時のコーヒーが、とびきり美味かったとしても…)
多分、そうだと気付きはしないし、たとえ美味くても、それで側近に選びはしない。
いくらコーヒー党だと言っても、人選を左右するほどではない。
(だが、実際には、実に美味くて…)
今では他の者が淹れても、「これは違う」と苛立ってしまう時もある。
「同じコーヒーで、こうも違うか」と、「どうして上手く淹れられないのだ」と、心の中で。
(流石に、口には出さないのだが…)
部下たちも気配で察しているのか、マツカには不名誉な渾名があった。
「コーヒーを淹れることしか出来ない、能無し野郎」と、あからさまに陰口を叩かれている。
(本当の所は、誰よりも役に立つのだが…)
明かすわけにはいかないからな、と放っているから、マツカは「コーヒー係」でしかない。
もっとも、マツカの階級からしても、それ以上の仕事は出来ないけれど。
マツカを側近に据えた時には、キースは既に「上級大佐」に昇進していた。
その後、国家騎士団元帥を経て、今は元老の地位にいる。
最高機関のパルテノン、即ち元老院が職場なのだし、マツカに務まる役職など無い。
もう本当に「コーヒー係」で、今日も何杯か淹れていたけれど…。
(…此処へ来てから、つくづく思うことだが…)
人間の好みというのは色々あるな、と呆れながらも感心させられる。
軍人だった頃は、何処へ行っても、コーヒーが出るのが常だった。
たまに「何を飲みますか」と訊かれはしても、選択肢はコーヒーと紅茶くらいで。
ところが、パルテノンでは違う。
実に様々な飲み物があって、元老たちは休憩時間に自室で飲んでいるようだ。
だから彼らを訪ねて行ったら、当然、それを飲むことになる。
紅茶は理解の範疇だけども、ハーブティーやら、冷えたレモネードやらは口に合わない。
それでも「飲むしかない」けれど。
相手が「どうぞ」と勧めるからには、「頂きます」と飲むのが礼儀で、断れはしない。
(同じコーヒーでも、とんでもないのが出るからな…)
これは本当にコーヒーなのか、と目を剥いてしまった経験もあった。
ホイップクリームがたっぷり入った、とんでもなく甘い「ケーキのような」コーヒー。
(おまけに、次に訪ねて行ったら…)
覚悟して飲んだ「ホイップクリーム入り」の中に、別の味わいが隠されていた。
オレンジか何かの柑橘類で、クリームの上には、色とりどりのトッピングまで。
(なんと言ったか、遥か昔の女帝の名前で…)
御自慢のコーヒーだったらしいけれども、キースにとっては「コーヒー」の味ではなかった。
甘くて怪しい菓子でしかなくて、あの時は自室に戻るなり…。
(コーヒーを、と…)
マツカに命じて口直しをして、ようやく人心地ついたほど。
何故、同じコーヒーがああも変わるか、それを好んで飲む者がいるのか理解出来ない。
とはいえ、個性も好みも「人の数だけ」あるものだから、その点は仕方ないだろう。
ただ、パルテノンに来てから、その実感を深くした。
軍人出身の元老は「キース」だけだし、そのせいもあるのかもしれない。
他のコースで育った者だと、コーヒーと紅茶の他にも多様な選択肢があって…。
(あれこれ選んで飲んでいる内に、ああいった風に…)
独自の道を突っ走るようになるのかもな、と可笑しくなった。
軍人ばかりの世界だったら、飲み物といえども質実剛健、コーヒーか紅茶かくらいなのに。
そうした環境で生きて来たせいで、今も昔も「コーヒー党」だと自認している。
中でもマツカが淹れるコーヒーが一番、部下たちがつけた不名誉な渾名は伊達ではない。
(そういう意味でも、いい部下を持ったな)
この一杯が美味いんだ、と絶妙な苦味を味わう間に、ハタと気付いた。
「どうして、コーヒー党なのだ?」と。
いつから「キース」はコーヒー党で、コーヒーを好んで飲んでいるのか。
(……ステーションでは……)
一切、指導されてはいないし、強制されたわけでもない。
食堂に行けば「選べた」わけで、そういえば、今でも忘れられない「シロエ」は…。
(シナモンミルクに、マヌカ多め…)
そのように注文している所を、何度か見掛けた。
あれが「シロエ」の好みだったわけで、彼が生きて出世していたら…。
(普段は周囲の者に合わせて、コーヒーか紅茶だったとしても…)
パルテノン入りを果たした後まで、大人しく「そのまま」でいたとは、とても思えない。
ここぞとばかりに自分の好みで、自室では常にシナモンミルクで、客人にまでも…。
(如何ですか、と出しかねないぞ)
ケーキのようなコーヒーが出て来る世界だからな、と肩を竦めた。
あれに比べれば、シナモンミルクはマシな方だと言えるだろう。
シロエは「それ」を好んだわけで、そうなると「軍人だから」といって…。
(必ずしもコーヒー党ではなくて、他にも色々…)
好みがあって、普段はプライベートな空間だけで「それ」を楽しんでいるかもしれない。
ソレイドで会ったグレイブにしても、セルジュやパスカルといった部下たちにしても。
(…では、私は…?)
どうしてコーヒー党なのだ、と「Eー1077から後」だけしかない記憶を手繰る。
誰にコーヒーを勧められて飲んで、いつからコーヒーが気に入りなのか、と。
けれど、全く「思い出せない」。
むしろ恐ろしい、「一番最初に」飲んだコーヒー。
あのステーションで出会ったサムと、初対面の日に、二人で食堂に出掛けて行って…。
(コーヒーを、と…)
迷うことなく注文をして、しかも「ホット」で「ブラック」と言った。
「水槽から出て来たばかりのキース」は、コーヒーを飲んだことが無いのに。
ホットとアイスで違う味わい、砂糖を入れるか、入れていないかの違いも、一度も…。
(自分の舌では、まるで全く…)
知らなかった、と断言出来る。
水槽の中で育ったからには、コーヒーも紅茶も、ミルクも口にはしていないから。
(…だったら、あれは…)
マザー・イライザが教えた知識か、と愕然とした。
「何か飲むのなら、コーヒーがいい」と思ったことも、ホットでブラックが好みなのも。
それ以外には「考えられない」し、他の可能性は一つも無い。
(…そうだとすると、私の思考は、飲み物の好みに至るまで…)
機械が仕組んで組み立てたもので、それを「知らずに」実行しているだけかもしれない。
自分では「自分の意思」のつもりで、日々を、人生を生きているのだけれど…。
(…サムもスウェナも、シロエも、マザー・イライザに選び出されて、私の前に…)
現れたのだし、サムを「好ましく思って」親しくしたのも、機械が仕向けた行動だろうか。
シロエとは衝突を繰り返した末に、この手で殺す結果になったけれども…。
(…あれも機械の計算の内で、私がそれに従った以上は…)
今も「シロエ」を忘れられないのも、シロエの面影が重なった「マツカ」を助けたことも…。
(何もかも、機械の手のひらの上で…)
起きていることで、「キース」は「踊らされている」のだろうか。
機械は全てを承知していて、「マツカ」が「ミュウである」ことも把握していて…。
(キースの役に立っているから、と…)
見逃している可能性もある。
それだけで済めばいいのだけれども、あるいは「マツカ」との出会い自体が…。
(機械に仕組まれたことだった……のか…?)
まさか、と即座に否定しかけて、「そうかもしれない」と背筋が冷えた。
マツカは「成人検査をパスした」ミュウで、それは偶然ではないかもしれない。
かつて「シロエ」がそうだったように、マツカも機械に選び出されて、検査をパスして…。
(ソレイドで私と遭遇するよう、仕組まれて…)
出会った私を殺そうとしたのも、そんなマツカを助命したのも…、と指先が震える。
「何もかも機械の計算なのか」と、「私は機械に操られているだけなのか?」と。
そうだとしたなら、この人生は「キース」のものではない。
シロエが嘲笑った通りに「操り人形」、自由になれる時があるとしたなら…。
(…ミュウどもが来て、グランド・マザーと、マザー・システムを…)
破壊した後しか有り得ない。
もっとも、その時、「キース」が生きているかどうかは、読めないけれども…。
(…早く来い、ジョミー・マーキス・シン…!)
私の意思が本当に私のものか知りたいからな、と心から思う。
たとえ破滅が待っていようと、行きつく先が惨い死に様であろうとも。
その時が来れば「分かる」から。
機械の手のひらの上で生きていたのか、自分の意思で生きて歩いた人生なのかが…。
決められた好み・了
※キースはどうしてコーヒー党なんだ、と思った所から出来たお話。水槽育ちの筈なのに。
ホットとブラックは、原作から。作中の怪しげなのは「マリア・テレジア」、実在します。
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