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補聴器の盲点

(えーっと…?)
 こういう時には…、とジョミーが探ってゆく記憶。
 アルテメシアは陥落させたし、この先はどういう道を進んで戦うべきか、と。
 今は亡きブルーが「遺した」記憶装置は、実に頼りになるアイテム。三世紀以上にも及ぶ、長として生きた「ソルジャー・ブルー」の「全て」が詰まっているだけに。
(…地球の座標を手に入れたからには、一刻も早くアルテメシアを…)
 後にするのがベストだろうか、と「ブルー」の考え方を確認。「それでいいよね」と頷いた。
 もしもブルーが「生きていた」なら、そういう道を選ぶ筈だし、「ジョミー」は間違ってはいない。自信を持って仲間たちにも宣言できる、と自室で「明日の予定」を立ててゆくけれど…。
(…あれ?)
 ちょっと待って、と頭に引っ掛かったこと。
 今、迷わずに決めた方針。「ブルーがやっても、こうなるんだから」と自信に溢れて。
 ナスカがメギドに滅ぼされた後、「アルテメシアへ戻ろう」と、天体の間で大演説をぶった時にも、こうだった。「ぼくが正しい」と、「ブルーだって、同じことをする」と確固たる信念もあったのだけども…。
(その根拠って…)
 コレじゃないか、と思わず指差した、頭に装着している補聴器。
 元々はブルーの「補聴器」だったモノで、フィシスが託されていた「ジョミーへの形見」。
(ただの形見だと思ってたのに…)
 青の間でフィシスから受け取った時は、そう考えた。「ただの補聴器」と。
 けれどブルーが「遺して行った」のなら、一応、頭に着けてみるべき。聴力には何の問題もなくて、補聴器なんかは不要な身でも。
(そうするのが、ブルーへの礼儀だと思って…)
 装着したら、膨大な量の記憶が流れ込んで来た。ソルジャー・ブルーの「生き様」が全て。
 まるでブルーが「直接、語り掛けてくる」かのように。
 補聴器をフィシスに託す直前、ブルーが遺した「最後の思い」。
 『俯くな、仲間たち。…ぼくの死を乗り越え、生きて地球を目指せ』。
 そのメッセージを受け取ったから、「地球に行こう」と決心した。まずはアルテメシアを落として、其処を足掛かりに地球を目指す、と。


(……俯くな、仲間たち……)
 アルテメシア行きを宣言した時の、演説の出だしは「ソレ」だった。
 今から思えば「ブルーの遺言」そのまま、まるっとパクッたような「アレ」。
(…ブルーがそう言っていたんだから、って…)
 背中を押して貰ったキモチで、太鼓判を押して貰った気分でもあった。
 それ以来、「ミュウの未来」を考える時は、「記憶装置の中身」を探るのが習慣。「ブルーだったら、どうするんだろう?」と、「ぼくの考え方で、合っているのか?」と、今みたいに。
(それはいいんだけど…)
 とっても頼りになるんだけれど…、と思う一方、気になる「空白」。
(…すっぽりと抜けているんだよね…)
 十五年分、と溜息をつく。
 アルテメシアを追われるように脱出した後、ブルーは間もなく、深い眠りに就いてしまった。それきり一度も目覚めることなく、ナスカの惨劇の直前に「再び目覚めた」ブルー。
 その間の記憶は何一つなくて、ただの「空白」。
 ブルーが「深く眠っていた」なら、そうなるのも仕方ないとはいえ…。
(……誰も気付かなかったわけ!?)
 眠り続けるブルーの頭に「あった」補聴器、その正体は「記憶装置を兼ねた」ブツ。
 持ち主が「深く眠ったまま」なら、その記憶装置が「記録すべきこと」は全く無い。ブルーは眠っているだけなのだし、何も「考えてはいない」だけに。
(…だったら、ぼくに貸してくれれば…)
 良かったんじゃないか、と今頃になって気が付いた。
 あの時、「コレ」が「ジョミーの頭に」くっついていたら、どれほど頼りになったろう。ナスカを見付けて、降りるまでの長い年月に。
(…みんなの心が疲れ果てて、日に日に荒んでいっても、あの頃のぼくには…)
 どうすればいいのか、まるで分かりはしなかった。「どう導けばいい」のかも。
 それでは、ブリッジに顔を出すのも辛い。他の仲間たちの視線も痛い。
(…だから、ヒッキー……)
 ほぼ引きこもりの日々だったわけで、「ジョミー」の評価はダダ下がりだった。
 けれど、あの時、「記憶装置」があったなら…。
(絶対、引きこもっていなかったし!)
 とても頼もしい相談役がついているのだから、自信に溢れた「ソルジャー」になって、評価も上がっていたのだと思う。「流石は、ソルジャー!」と、皆に絶賛されて。


 そういうことじゃん、とジョミーが受けた衝撃。
 十五年もに及んだ「引きこもり」生活、それは「導き手がいなかった」せい。
 ブルーは眠り続けていたって、記憶装置さえ借りられたならば、何もかもが違っていただろう。ナスカに降りるまでの放浪、その期間だって短くなって。
(…ぼく一人だと、思い付きさえしないけど…)
 ブルーだったら、きっと気付いた。「今は、休息が必要だ」と、フィシスの占いに頼るまでもなく、「取るべき道」に。
 早くにナスカに着いていたなら、あの星はもっと、豊かになったに違いない。
(…初めての自然出産だって…)
 皆の気持ちに余裕があったら、当然、何処かから「そういう声」が上がっただろう。ミュウの子供が船に来ないのなら、「作ればいい」と前向きに。
(最初の間は、人工子宮を作れないか、とか、旧態依然とした考え方しか…)
 無かったとしても、いずれ誰かが思い付く。ミュウのパラダイスのようなナスカで、ゆったりと日々を送っていれば。
(満ち足りた生活、っていうヤツは…)
 いろんな発想を生み出すよね、と思うものだから、「あんまりなんじゃあ…?」と声も無い。
 ブルーの記憶装置さえ貸して貰えていたなら、ドツボにはまりはしなかった。ヒッキーなんかは「してもいなくて」、ナスカでも「良き指導者」として立っていただろう。
(キースが、ナスカに来た時だって…)
 後手後手に回ってしまった「あれこれ」。
 そちらも「ブルーの記憶」があったら、もう完璧に乗り越えられた。ブルー自身が「そうした」ように、「地球の男」の退路を断って、「逃がしはせずに」。
(それでも逃げて行ったとしたって…)
 ジョミーに「指導者としての」力があったら、「ナスカ脱出」は鶴の一声。
 「直ちに、ナスカを離れて逃げる!」と撤収命令を出しさえすれば、皆、粛々と従っただろう。
 「ソルジャーが逃げろと言うんだったら、本当に危ないに違いない」と納得して。
(…逃げていたなら、メギドが来たって…)
 ナスカは空っぽ、被害はゼロ。
 そしてブルーが「目覚めなくても」、「ジョミー」は「思い付いた」と思う。ナスカまで滅ぼそうとする人類を相手に、「何をすべきか」を。


(うーん…)
 誰も教えてくれなかったし、と愕然とさせられる「補聴器」のこと。
 まさかブルーが「自作した」とも思えないから、その存在を「知っていた」者が、きっと、船にいる筈。メカには強いゼル機関長とか、シャングリラを纏めるキャプテンだとか。
(ぼくに、説教を垂れるより前に…!)
 コレを教えて欲しかった、と痛切に思う「補聴器の真実」。ソレに詰まった「ブルーの記憶」。
 今現在、こうして「使っていても」オッケーならば、あの頃だって同じこと。今よりもずっと「頼りなかった」、初心者マークの「ジョミー」が頼って、何故、悪いのか。
(教えてくれなかった、ハーレイたちも酷いけど…)
 ひょっとしたら、ブルーの許可が無いと、補聴器は「貸し出せなかった」ろうか?
 それなら「黙っていた」のも仕方ないことで、無理もない。そうなってくると、悪いのは…。
(…万一の時には、ジョミーに渡せ、って…)
 言っておかなかった「ブルー」が、諸悪の根源なのかもしれない。
 「ぼくはもうすぐ燃え尽きる」などと言っていたから、「ポックリ逝く」可能性は充分あった。
(死んだ時には、渡せって言っていたかもだけど…)
 それ以外の事態も、想定しておいて欲しかった…、と記憶装置を探っていったら、見付けた記憶。恐らくブルーが、繰り返し抱いていた「イメージ」。
(……はい、はい、はい……)
 ソレしか「考えていなかった」んですね、とジョミーは地味にブチ切れた。
 記憶装置にあったイメージ、其処でブルーは「青の間のベッドで」大往生を遂げていた。大勢の仲間や長老たちに見守られながら、赤い瞳を静かに閉ざして。
 その直前に「ジョミーに補聴器を渡して」、これで全ては終わったとばかりに。
(……こんな夢ばかり、何度も見ていなくっていいから……!)
 もっと現実を見て欲しかった、と心の中で絶叫したって、後の祭りというヤツでしかない。
 ブルーにとっては、「大往生」以外の「最期」なるものは、「想定外」だっただけに。
(…昏睡状態になったまま、十五年間というシナリオは…)
 この人の中には無かったわけね、とジョミーがギリギリと噛み締める奥歯。
 「やってられっか!」と、「この人のドリームのせいで、ぼくは十五年間もヒッキーで…!」と怒り心頭、何もかも全部、「ブルーが悪い」。
 ヒッキー人生を送らされたのも、ナスカの惨劇も、無駄に遠回りさせられた地球への道も。


 なんてこったい、とジョミーは怒って、「そういうことなら…」と、考え直した「今後」。
 ブルーのような「酷すぎる」独りよがりな発想、ソレが「通る」のなら、ぼくだって、と。
 なにも「理想の指導者」、「良きソルジャー」などでなくたっていい。地球まで、最短で行けるのだったら、「独裁者だって、いいじゃない!」と握り締めた拳。
(繊細なミュウを、導きながら地球に行くなら、まだまだ先は長いけど…)
 人類並みにタフな神経の「ジョミー様」が「好きにしていい」のだったら、劇的に短縮できるだろう時間。「繊細なミュウ」の心情などは、サラッと無視して、ただガンガンと進んでゆけば。
(……よーし……)
 やってやる! と固く心に誓ったジョミー。
 その翌日から、彼は「変わった」。血も涙もない「ソルジャー」に。
 仲間たちの泣き言には、一切耳を貸さないばかりか、降伏して来た人類軍の救命艇さえ、「やれ」と爆破を命じるような、冷血漢。「鬼軍曹」と皆が恐れる、ソルジャー・シンに。
(…ブルーの記憶がどうなっていても、結局は「地球に行け」ってことだし…)
 結果が出せればそれでいいんだ、と「すっかり人が変わった」ジョミーは、地球への道をひた走ってゆく。「地球まで行ければ、誰にも文句は言わせない!」と、ただ一直線に。
(ぼくが変わった原因ってヤツには、誰も気付いてないみたいだけど…)
 知ったら文句も言えなくなるさ、と「鬼のジョミー」は進み続ける。
 「十五年も無駄にさせられたんだ」と、「補聴器のことさえ知っていたら…!」と、個人的な恨み全開、ブルーへの怒りMAXで。
 そうやって、辿り着いた地球。
 グランド・マザーとの戦いの末に、負ってしまった致命傷。
(……畜生……!)
 このジョミー様の「苦悩の生涯」は、誰にも分かって貰えないままで、この地の底で終わるのだろうか…、とジョミーが、半ば覚悟をしていた所へ、トォニィが来たものだから…。
「トォニィ。…お前が次のソルジャーだ」
 ミュウを、人類を導け…! とジョミーは「補聴器」をトォニィに託し、ただ満足の笑みを浮かべた。トォニィが、いつか「ジョミーの記憶」を見てくれたなら…。
(……全てが分かるし、お前は、ぼくの轍を踏むんじゃない……!)
 ついでに、ぼくの名誉も回復して貰えたら…、と夢もちょっぴり見たりする。
 どうして「ジョミー」が「鬼になったか」、それをシャングリラの仲間たちにも、遅まきながら、分かって貰えたならね、と…。

 

             補聴器の盲点・了

※いや、ブルーが昏睡状態だった間は、あの補聴器の記憶を「使えた」んじゃあ、と…。
 わざとなのか、ナチュラルに忘れられていたか。補聴器の記憶さえ「使えていたなら」ね…。









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