(こんな格好だけ、させられてもさ…)
悪目立ちしちゃうだけなんだから、と今日もジョミーは愚痴っていた。心の中で。
ソルジャー候補に据えられて以来、派手にド目立ちする衣装とマントが必須の日々。
なのに、伴わない中身。衣装に見合った働きが全く出来ないからして、陰口だって叩かれる。
(馬子にも衣裳、って…)
船の誰もが思っているから、いたたまれない上に情けない。「格好だけだ」と自覚は充分、陰でコソコソ言われなくても。…思念でヒソヒソやられなくても。
(サイオンの訓練を頑張ったって…)
悲しいかな、自分はソルジャー候補。
好成績を叩き出しても「出来て当然」、そういう目線。訓練担当の係はもとより、お目付け役の長老たちだって。
(少しも褒めてくれないし…)
逆に「やれば出来る」と言われる始末。もっと頑張れと、更なる高みを目指して努力、と。
何かと言えば、「ソルジャー・ブルーなら、これくらいは…」という評価。まだまだサイオンは伸びる筈だし、タイプ・ブルーの実力を発揮していないとも。
「褒めて伸ばす」という言葉が無いらしい船。
シャングリラはなんとも厳しすぎる船で、ソルジャー候補に甘くなかった。子供たちなら、甘いお菓子も優しい言葉も貰えるのに。
(…下手に十四歳だから…)
成人検査も受けちゃったのが敗因だよね、と分かってはいる。もっと幼い頃に来たなら、少しはマシになっていたろう風当たり。
けれど身体は縮みはしないし、きっとこのままスパルタ教育。
(…それでソルジャーになったって…)
ブルーみたいに身体を張って戦う日々で、と悲しい気分。
目立つ衣装も機能優先、物凄い防御力を誇る代物。ちょっとやそっとで破れはしなくて、耐火性だって抜群と来た。
(どうせだったら、見た目重視で…)
現場に出る時は、カッコイイ服に着替えられたらいいのにね、と零れる溜息。
アタラクシアの家にいた頃、ニュースなどで見たメンバーズ。国家騎士団の軍服とかに憧れた。いつかああいうのを着てみたいよね、と。
そう思ったのに、これが現実。時代錯誤でド派手なマント。
お伽話の王子様か、と自虐的な見方をしてしまうほど。この服を着て舞踏会かと、船中の女性とワルツを踊れと言うつもりか、と。
(何処から見たって、そっち系だよ…)
王子様なんてワルツだけだ、と思ったけれど。お姫様とハッピーエンドなんだ、とお伽話の王子たちを順に数えたけれど。
(えーっと…?)
シンデレラも白雪姫もそうだし、「眠れる森の美女」もそう。人魚姫も、と「王子様」の出番の少なさを嘆きまくっていたのだけども…。
ちょっと待って、と気付いたこと。
お伽話の王子様なら、お妃選びに舞踏会。ハッピーエンドな結婚式の添え物、主役はお姫様かもしれない。もしかしなくても、多分、そう。
けれど、視点を王子の方に絞ったら…。
(…カッコ良くない?)
ドラゴン退治や冒険の旅。本来、王子はそういうポジション。
剣を握って戦いまくって、颯爽とマントを靡かせるもの。
(…そっちだったら…)
この格好でもカッコいいかも、考えた。剣を振るって戦うのならば、絵になりそうだ、と。
ソルジャーとしての戦いだったら、まるで出番が無さそうな剣。
けれども、剣の達人となれば、皆の評価も変わるだろう。「出来て当然」ではないのだから。
サイオンに加えて剣も出来れば、プラスアルファの能力だから。
(うん、剣だよ…!)
それでカッコ良く戦ってやる、と固めた決意。一人きりでも剣士の道だ、と。
(きっと、ぼくしか戦えないしね?)
尊敬の視線を浴び放題、と思い立った足で走って行った。青の間まで。
「ブルー! お願いがあるんですけど!」
長老たちに意見して貰えませんか、と切り出したブルーの枕元。ベッドに横たわったままの青の間の主、ブルーは眠っていなかったから。
「ジョミー…? 君はいったい…」
何を彼らに頼みたいんだい、と瞬いた瞳。「君では頼みにくいのかい?」と。
「え、ええ…。その…。ちょっと…」
普通の頼み事じゃないですから、と打ち明けた剣の修行の話。
このシャングリラで唯一の剣士、その道で名を上げたいと。
王子みたいな衣装を着るなら、それに相応しくカッコ良く、と。
そうしたら…。
「…いいだろう。君の覚悟は良く分かった」
「え?」
覚悟って、と言い終わらない内に、「頑張りたまえ」と握られた右手。「嬉しいよ」とも。
「君にはソルジャーを継いで貰えれば、それで充分だと思ったけれど…」
剣の道まで継いでくれるとは、とブルーが浮かべた歓喜の表情。
「ぼくの代で終わりだと思っていたよ」と、「是非、シャングリラ一の剣士に」とも。
「ま、待って下さい…!」
あなたって剣士だったんですか、とビビッたけれども、「そうだとも」と頷いたブルー。
曰く、「若い頃には船で一番の剣士だった」と、「誰もぼくには勝てなかった」。
「君に其処まで要求するのは悪いと思って…。でも、君が望んでくれるなら…」
ぼくの剣を君にプレゼントしよう、と起き上がったブルー。「この下に…」と。
青の間に置かれたデカすぎるベッド、それの下から引っ張り出された革張りの箱。中から本当に剣が出て来た、まさしく王者といった風情の。
「…ブ、ブルー…?」
これって、と腰が引けているのに、「ほら」と譲られてしまった剣。「持ってごらん」と。
剣は素晴らしく重かった。
オモチャの剣とは違うらしくて、刃の部分を潰してあるというだけ。研ぎさえしたなら、本物の剣になるという。ドラゴンだって倒せるような。…伝説の勇者に相応しいような。
なんだって船にそんなものが、と驚いたけれど、答えは娯楽。
シャングリラの中でしか生きられないミュウ、体力作りと憂さ晴らしを兼ねて始めた遊び。
どうせやるなら本格的に、と本物志向の剣を作って。
旅の剣士やら女剣士やら、皆が好みの役どころで。
「修行するなら、ハーレイに頼んであげるから」
ぼくの次に強いのがハーレイだから、とブルーは笑顔で思念を飛ばした。「直ぐに来るよ」と。
間もなく来たのがキャプテン・ハーレイ、「分かりました」と引き受けた指導。
「私だけでは、ジョミーもつまらないでしょう。…ブラウたちにも声を掛けます」
彼らも達人ですからね、と聞かされたジョミーが悟ったドツボ。
サイオンの訓練の日々に加えて、これからは剣の修行まで、と。
(…なんで、こういうことになるわけ…?)
ぼくはカッコ良くキメたいと思っただけなのに、と叫びたくても、もはや手遅れ。
ブルー愛用の剣を譲られたし、ハーレイも喜んでいるようだから。「良かったですね」と。
シャングリラ一の剣士の跡継ぎ、それが生まれるとは素晴らしいです、と。
かくしてジョミーが背負う羽目になった、想定外だった剣の練習。
けれども、始めてみたら意外に…。
(面白いかも…?)
サイオンよりかは性に合うよね、とハーレイやゼルやブラウを相手にチャンチャンバラバラ。
その内に噂を聞いた若手も加わったけれど、ジョミーは筋が良かったらしい。
(これなら勝てる…!)
もうこの船の誰にでも、と向かう所に敵は無かった。
ただし…。
(…もしもブルーが現役だったら…)
まだ勝てない、とブルーの剣を知る誰もが言うから、懸命に磨き続けた腕。
ブルーが眠ってしまっても。
赤いナスカが燃えてしまって、ブルーがいなくなった後にも。
(負けられない…!)
人類なんかに負けてたまるか、と氷のような瞳で戦う地球までの道も、憂さ晴らしの友は自分の剣。ブルーに貰った剣を握って、ただひたすらに振るい続けた。
「かかって来い!」とハーレイを、リオを相手にして。
時には一度に何十人だって、切って切り結んで、倒しまくって。
そうやって戦い続けた剣士。シャングリラ一の剣士のジョミー。
けれども、まさかプロとは思わないのが人類だから。…機械の申し子、キースにだって、分かるわけなど無かったから。
地球の地の底で、いきなり剣を向けられたジョミーが取った反応、それは…。
「貰ったーーーっ!!!」
一瞬で見切ったキースの剣。サッと引くなり握ったのが剣、キィン! と響いた金属音。
キースの剣は一撃で弾き飛ばされ、思い切り宙を舞うことになった。
勝負は瞬時についてしまって、「私の負けだ」と認めたキース。
黙っていないのがグランド・マザーで、裏切ったキースを粛正するべく、山ほどの剣を降らせたけれど。文字通り剣の雨だったけれど、相手はジョミー。
「させるかぁーーーっ!!!」
端から叩いて弾き返して、その勢いで高めたサイオン。もう頭から突っ込んで行って、デッカイ目ごとグランド・マザーを貫いた。「この機械め!」と。
瓦礫と化したグランド・マザーの最後の攻撃、飛んで来た剣も…。
「フン!」
こんなのでぼくが倒せるか、と素手でピシャリと叩き落とした。殺気に気付けば簡単なこと。
(…まったく…)
世の中、何が役に立つやら、とマントの埃を払ってキースに差し出した右手。
「帰ろうか」と。
「あ、ああ…。しかし、お前は…」
いったい何処でこんな技を、とキースが呆然と座り込んだままで尋ねるから。
「ぼくたちの船だ。…あそこには大勢、師匠がいたから」
そして最強の剣士はブルーらしい、と浮かべた笑み。
ジョミーに他意は無かったけれども、キースの腰は見事に抜けた。
何故なら、ブルーと戦ったことがあったから。…メギドで拳銃で撃ちまくったから。
(…あの時、あそこに剣があったら…)
私は切り殺されていたのか、というキースの認識、それは間違ってはいない。
グランド・マザーをも倒した剣士ジョミーは、今もブルーに勝てないから。
三百年以上もシャングリラ一の剣士だったブルー、彼が現役なら、どう戦っても敗北だから…。
最強の剣士・了
※アニテラの最終話、なんだって剣で戦う必要があったのか、未だに分からないのが管理人。
単なるビジュアルだけなんじゃあ、と思ったトコからこういうネタに。…剣士ジョミー。