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ぼくの女神へ

『ジョミー…! みんなを頼む』


 …届いただろうか、ぼくの最期の思念は。
 それとも船はワープした後で、届くことなく、宇宙に消えていっただろうか。


 どちらでもいい、全て終わったから。
 今度こそ、ぼくの命は燃え尽き、皆の盾となって砕け散ったから。


 けれども、届けられなかった想い。
 伝えないまま、優しい嘘をついてしまった。
 「直ぐ戻るよ」と。
 二度と船には戻らないことを、ぼくは誰よりも知っていたのに。


 …フィシス。
 ミュウの、ぼくたちの大切な女神。
(…本当は、ぼくの…)
 ぼくの女神で、ぼくが欲しくて手に入れた女神。
 君だけが抱く美しい地球を、いつまでも、この目で見ていたくて。
 そのためだけに、あの水槽の前に通い続けて、どうしても諦めることが出来なくて。


 そうして、ミュウの皆を騙した。
 ぼくは最後まで、君の生まれを隠したまま。
(…この先、君は…)
 どうなってゆくのか、ぼくには分かっているけれど。
 サイオンを失い、ぼくを失い、立ち竦む君が見えるけれども、これより他に道は無かった。
 仲間たちも、君も、共に救うには、時間が足りなかったから。
 君の「命」を守ることしか、ぼくには出来なかったから。


(……フィシス、すまない……)
 どうか、恨むなら、このぼくだけを。
 他の誰をも恨みはしないで、ただ、ぼくだけを憎んで欲しい。
 ぼくを忘れてしまっていいから、心の中から放り出して、捨ててしまっていいから。


 …だから、フィシス…。
(…君は、生きて…)
 ぼくなど許さなくてもいいから、忘れていいから、先へ進んで。
 たとえ暗闇で一人、立ち竦もうとも、憎しみは全て、ぼくにぶつけて。
 後ろばかりを振り返らないで、ただ真っ直ぐに、前を見詰めて。


 それだけが、ぼくの最後の望み。
 言えずに、終わってしまったこと。
 この想いが君には届かなくても、ぼくは永遠に祈り続ける。


(…フィシス、ぼくの女神…)
 君の未来に、幸多かれ、と。
 ヒトとして皆と生きていって欲しいと、君も間違いなく「ヒト」なのだから、と…。

 

            ぼくの女神へ・了


※「ブルー追悼は、もう書かない」と言っていたくせに、また今年もかい、と。
 アニテラ放映当時から14年、目覚めの日な歳月が経ってしまって、今や本業も転生ネタ。
 けれど「コロナ禍だしな」と書いたのが去年で、今年は去年よりも更に酷い夏に。
 無観客でも東京オリンピックを強行、コロナは第5波に入った模様で、ワクチンも不足。
 管理人だって打てていません、というわけで、2021年7月28日記念作品。
 今年もコロナ禍へのメッセージをこめていますが、来年は書かずに済むことを希望。








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