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生きてゆく形
「お前、週末、新入りに混じって、射撃訓練してたんだってな?」
 せっかくの休みに、何をやってるんだよ、とキースの耳に、聞こえて来た声。
 国家騎士団の者たちの会話で、食堂の中で話していた。
(…あいつか…)
 よく見る顔だ、とキースは「射撃訓練をしていた」らしい者を眺める。
 今のキースは上級大佐で、昇進する日も近いけれども、たまに食堂に入りもする。
 コーヒーを一杯、飲む間だけ、「観察」するのが目的だった。
 階級が上になって来るほど、下の者たちの様子が分かりにくくなるからだ。
(週末返上で射撃訓練とは、将来、有望だな)
 覚えておこう、と心のメモに書き留めた所で、当の本人が、こう答えた。
「そりゃまあ、キッチリ訓練していりゃ、上の覚えもめでたいし…」
 腕も上がって一石二鳥だ、と「将来有望な人材」は、親指を立てた。
「休みを潰してやる甲斐はあると思わないか?」
「うーん…。俺は、それほど出世したいわけじゃないしなあ…」
 休みを楽しむ方が合ってる、と言った者の方は、週末はドライブしていたようだ。
 勝手気ままにハンドルを切って、首都惑星ノアの景色を満喫して来た、と得意げに話す。
「車の少ないトコに行ったら、飛ばし放題、気持ちいいぜ!」
「国家騎士団で鍛えた腕を、無駄に活かしているんじゃあ…?」
「生き甲斐っていうのは、人それぞれだろ?」
 あいつなんかは、食いまくって過ごしているみたいだし、と別の誰かの名前が挙がった。
 「どうせ訓練で痩せちまうからな」を口癖にしていて、休みの度に食べ歩くらしい。
 彼が自分の足と舌で集めた「グルメ情報」は、他の者の役に立っている様子だ。
(…確かに生き甲斐は、それぞれらしい…)
 たった三人の分を聞いただけでも、三通りか、とキースは苦笑し、席を立った。
 今日の「観察」も、来た甲斐があった、と「いずれ引き抜くかもしれない者」を見ながら。


 自分専用の部屋に戻ると、キースは早速、側近のマツカに指示を下した。
 「週末も射撃訓練をしていた者」に関して、出来る限りの情報を集めて来るように、と。
「分かりました。セルジュたちにも伝えますか?」
「そうだな。彼らも何処かで目にする機会がありそうだ」
 見掛けた時は注視するよう伝えておけ、とキースは「マツカ」の働きぶりに満足する。
 マツカの場合は、「キースの側近として働く」ことが、生き甲斐だろう。
(やっていて楽しい役目なのかは、分からんがな…)
 私の機嫌を取ったところで、出世が出来るわけでもないし、と思いはしても、良い点はある。
 マツカの正体は「ミュウ」なのだから、キースの側近でなければ、殺されてしまうだけ。
(生きていてこそ、生き甲斐もあるというものだ…)
 生き抜くことが、生き甲斐な者が「マツカ」かもしれない。
 プラスして「キースの役に立つこと」で、だから懸命に仕え続ける。
(なかなかに面白い生き甲斐だな…)
 出世欲だの、食欲だのとは違うようだ、と興味深く思う間に、ハタと気付いた。
 「キース」が「生き甲斐」としているものは、一体、何なのか。
(……私の生き甲斐……?)
 何かあったか、と振り返ってみて、背筋が冷たくなってゆく。
 「これだ」と即答出来る答えが、「キース」の中には無いらしい。


(…順調に昇進を遂げて来ているが、さっき食堂で見た者のように…)
 上官の覚えがめでたくなるよう、行動していた記憶など無い。
 第一、思い付きさえしなくて、ただ、黙々と努力を重ねて、今があるだけ。
(…そういえば…)
 Eー1077を卒業した時には、同期の仲間が何人かいた。
 研修期間が過ぎると、別の所へ散っていったけれど、そうなる前は一緒だった。
 射撃訓練にしても、練習艇の操縦にしても、教官や上官に指導を受ける時は、彼らがいた。
(誰もが、高く評価して貰うために…)
 競い合った中で、「キース」は、彼らを全く意識しないで、自分の考えで動き続けた。
 「競い合う」のは成績だけで、他の所で競い合おうとしたことは一度も無い。
 けれど、同期の者は違って、教官や上官に「取り入るチャンス」を狙っていた。
(…資料を集める必要があれば、名乗り出てみたり…)
 練習艇の整備係を申し出たりして、「点数稼ぎ」を繰り返す日々。
(下らないことを、と切り捨てていたが…)
 彼らは「将来の出世」のために、道筋をつけていたのだろう。
 少しでも有利な配属先へ赴けるよう、せっせと「自分」を売り込んで。
(あれも一種の生き甲斐なわけで、野心があるからやっていたことで…)
 結果を出せたかどうかはともかく、彼らは「生き甲斐」を持っていた。
 「キース」が淡々と生きる間も、明確な目標を目の前に据えて。


 どうやら「キース」にとっての出世や昇進は、「生き甲斐」とは無縁で、結果しかない。
 これから昇進し続けてみても、「私は、この地位に就きたかった」と考えはしないことだろう。
 国家騎士団総司令だろうが、空席のままの国家主席に選ばれようが、「どうでもいい」。
(…その地位に就くのが目標ではあっても、私自身が「なりたい」気持ちは…)
 何処にあるのだ、と自分の中を何度探っても、何も見付かりはしなかった。
 今日までの人生の「目標」は全て、「マザー・イライザ」や「グランド・マザー」が…。
(…そうするように示唆して来るのを、こなし続けて来ただけで…)
 私の意志は含まれていない、とキースは、ゾクリとする。
(…ミュウのマツカを、側近に据えているように…)
 マザー・システムの意向に反することなら「している」とはいえ、「生き甲斐」とまでは…。
(言えはしないな…)
 生き甲斐ならば、もっとミュウに肩入れするさ、と思うからこそ、恐ろしい。
 「生き甲斐」を持たずに生きて来たなら、かつてシロエが言った通りに…。
(…お人形さんだ…)
 マザー・イライザと、グランド・マザーの「人形」でしかない、と目の前が暗くなるよう。
 そうなるように「作られた」からか、それとも、気付かない内に「そうなっていた」か。


(…私にも、私の考えがあって…)
 現に「マツカ」を生かしているから、「自分の意思が無い」わけではない。
 「生き甲斐」と呼べる「何か」を持っていないだけで、これから先に、出来るかもしれない。
(……そうなってくれれば良いのだが……)
 駄目だった時は「お人形さん」で終わるらしい、とキースは奈落の底に落ちてゆきそう。
(…もしも、サムが壊れてしまうことなく、無事でいたなら…)
 生き甲斐の一つもあっただろうか、と考えてしまう。
 多忙な日々の合間を見付けて、「ただのパイロット」になっているサムに会いに行くとか。
(…そうだったとしたら、それは立派な生き甲斐で…)
 どんなに忙しい任務だろうが、「サムに会う日」を目標に据えて張り切ったろう。
 「これが終われば、休暇なんだ」と、「サムに連絡を取って、会いに行けるぞ」と。
(…一般人のサムには言えない、機密事項を抱えていようが、黙っていれば済むことで…)
 サムに会ったら、任務で知ったことは話さず、思い出話に花を咲かせればいい。
 互いの近況なども話して、「またな」と別れて、「次の機会」を楽しみに生きる。
(……そうだな、サムさえ無事でいてくれたなら……)
 きっと「キース」にも「生き甲斐」があった、と思うけれども、サムは壊れてしまった後。
 人生が終わってしまわない内に、「生き甲斐」を見付けられなかったなら…。
(…お人形さんのままで、「キース」は消えてゆくのか…)
 あまりにも惨い、と辛くなるから、見付かって欲しい。
 立派な「生き甲斐」でなくていいから、「これだ」と思えるものを見付けて、追い続ける。
 「キース」の人生が終わる時まで、懸命に追って、生き続けて…。



            生きてゆく形・了


※キースは「何がしたくて生きている」のかな、と思った所から出来たお話。
 ステーション時代から、システムに懐疑的でも、それを形にはしなかったよね、と…。






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